一. メイスの幽霊

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「……あ……」  リオはバッと目を伏せた。手のひらにじわりといやな汗がにじむ。鼓動がばくばくと早く、うるさくなる。 「……大丈夫かい?」  やさしいメイスの声がして、リオは悲鳴をあげたくなるのをこらえて、ぐっと拳を握った。からだじゅうに冷たい汗がにじむ。 「っなんで……鏡に、うつってない、んだよ……!」  リオは目の前にたしかに見えているメイスを睨んだ。生きているようにしか見えないのに。なぜ。どうして。  するとメイスはやさしくほほえんだ。 「僕ね、幽霊なんだ。たぶん、死んでるっぽい」  拍子抜けするくらいのんびりとした声でメイスが言った。  リオはぽかんとした。 「は……? っぽい、ってどういうことですか……!?」 「いやあ、よくわかんないんだ。気づいたらここにいてさあ。でもみんな僕のこと見えないし、窓にも映んないし、あー僕幽霊っぽいなーって。そしたら死んでるって考えるのが普通じゃない?」  メイスがあまりにも緊張感のないのんびりとしたトーンで喋るので、リオの緊張までほどかれていく。 「は、はあ……?! じゃあ、二年間ずっと、幽霊としてここにいたっていうんですか」  部員が減り続けて、最後にはリオ一人になった天文部を、この旧科学室にすみつく幽霊としてずっとみていたというのか。 「そうそう。でも、日暮れから夜明けまでしか意識がないんだ。ね、幽霊っぽいだろ?」  メイスのきらめく瞳はちょっと得意げである。つくづくマイペースな性格は、幽霊になってもなお全く変わっていないようだ。リオは「はあ」と曖昧な相槌をうった。
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