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「しかしまあ、二年も経っていたんだね。そのあたりの記憶も、時間の感覚も、ぼんやりしててよくわかってなかったよ」
メイスはまるで他人事のようにやわらかく笑った。
「え……そ、それじゃあ——死んだときのことも、覚えていないんですか?」
震える声でたずねる。メイスはあっさりとうなずいた。
「ぜんぜん覚えてない。学校は一体、僕のことをどう処理したの? 病死? 事故死? まさか、殺人?」
メイスがぽんぽんと死因を言っていくので、リオは開いた口が塞がらなかった。もっとこう、死に対して悔しいとか悲しいとか、そういう気持ちはないんだろうか。というか殺人って、そんなわけないだろ。とこころのなかで突っ込む。
「い、いえ……実は、行方不明ってことになっているみたいです」
さっきグレンジャー先生に聞いた情報を伝えると、メイスは「ええっ」と目を丸めた。
「じゃあ僕、死んだことにもなってないの!?」
驚きで満ちたその叫びに、リオはこくりと頷いた。
そもそも生徒たちは、“行方不明”ということさえ知らされてない。リオ自身、メイスは突然転校したものとばかり思っていたのだから。
するとメイスははじめて、困ったように眉根を寄せた。そして顔を伏せて黙った。どうやら、自分の死を周知されていないことはかなりショックらしい。
どう声をかけていいかわからず、リオはただその姿をじっと見ていた。二年前に学校を去った時から、彼の姿は一切変わっていない。
しばらく沈黙が流れ、メイスは静かに口を開いた。
「……そうか、だから僕はずっとここにいるのか。きちんと葬られてないから、家族のもとに帰ってお別れを言いにいくこともできないんだね」
とても寂しそうな口調だった。
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