89人が本棚に入れています
本棚に追加
常磐線に乗り換えて空いている席に座ると、隣の中年男が缶チューハイを取り出して飲み始めた。するめの匂いまで漂ってきたので、李花は席を立って車両を移る。そちらには空席がなかったので、李花はドアに体をもたせかけた。
都会の灯りがどんどん遠ざかる。電車が下っていくにつれ窓の外は真っ暗になる。灯りを放つようなビルやマンションがないからだ。つい一時間前には都内にいたのが嘘のようだ。李花は思わずため息をついた。
自宅の最寄り駅に着き、ここからは車を運転して帰る。街灯のほとんどない道。道の両側はどこまでもだだっ広い田んぼだ。この辺りは土地ばかりあってやけに広いくせに、実際はとんでもなく狭いところだと李花は思う。
李花が地元を窮屈に感じ始めたのは中学生のころだった。
同じクラスに、頭の良い友人がいた。県内トップクラスの進学校にも余裕で合格できると言われていたのに、彼女が選んだのは大して偏差値の高くない市内の高校だった。
最初のコメントを投稿しよう!