1

2/9
86人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
「以前から言ってますけど、柴崎さんの声優技術はかなりハイレベルだと思います。滑舌、イントネーションの正確さ、声量。今第一線で活躍している声優に比べても遜色ないと思います」  眉間にしわを寄せすぎたせいでずれた眼鏡を直しながら言う。 「ただ、心に響くものがないんです。どんなセリフをしゃべっていても、迫るものがないんです。キャラクターの魂がまったく感じられないんです」  キャラクターに魂を吹き込む声優としては、致命的な指摘だ。真里菜は下唇を噛んだ。今までに受けてきた数々のオーディションで、似たような指摘を受けてきた。そのたびに真里菜は反省し、努力を積み重ねてきたはずなのに、何度も繰り返し同じようなことを言われてしまう。  三ツ沢も黙ったまま真里菜に向き合っていたが急にくるりと椅子を回し、机に重ねられた書類の中からA4用紙の薄い束を引っ張り出した。 「こんな仕事の依頼が来てるんですけど、やってみませんか?」  真里菜は渡された紙の束に目を走らせた。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!