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「マリアならいま治療中じゃ」
ゴホンと咳払いして言い放つオッサン。さっきまでの弱々しさや、いつもの馬鹿さ加減は見当たらない。威圧的な抑揚ない響きだ。
「酷い火事だったそうじゃん。あんなボロアパートに住ませるからだよ」
王城は飄々たる態度だ。おどけて腕をかざし、口元に笑みを浮かばせる。どこからどう見たって心配する素振りは見えない。
「おめーな、ボロアパートって」
俺はムカつきを覚えて立ち上がった。奴の胸ぐら目掛けて腕を伸ばす。確かにあのアパート、どこからどう見たってボロだ。だけど他人から言われたらムカつきを覚える。
あの火事、三崎単独の犯行だとは思う。だけどその件に関して、このコゾーも一枚噛んでる。何故って三崎があの場所を知り得る筈はないから。それだけミカドグループの偽装は完璧だった。ならばあの場所を教えたのは、このコゾーってことになる。
「止めろ」
だがその腕を後方の弾正に振り払われた。野太い腕だ。丸太で殴られたような衝撃を感じた。
辺りに漂う醜悪な空気。誰もが息を飲み、その展開を見守る。
「お父様」
その空気を切り裂きマリアが現れた。
「マリアちゃん!」
すかさず立ち上がるオッサン。大声を挙げてマリアに駆け寄る。ここは病院だぞっての。
「私は大丈夫です。それより、皆様にはご心配をお掛けしました」
言ってペコリと頭を下げるマリア。
「特にシュウさんには大変ご迷惑をお掛けしました」
そして俺に向き直り、一際大きく頭を下げる。
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