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家に戻って、翌日から普通の顔をして仕事に出勤しても、何処か様子は違う様で、家では母と三歳歳上の兄が、仕事先では直属の上司である営業部長と営業担当のパートナーと言える沢木が、心配した顔で自分を見ているなんて気付きもしなかった。
気付かない程、心はそこになかったのだと思う。
もう一人、心配してくれていた人がいた。
一週間が経つ頃、その人に声を掛けられた。
第二営業部、チーフ、宇佐美楓。
倫子が入社した時、第二営業部に配属されて、彼女の下で営業補佐をしていたのだ。
同じフロアの並んだ机のだいぶ先になるが、第一営業部と第二営業部はエリアが分かれている。
距離はあるが、大きな声を出せば聴こえるし、顔も見れる。
ずっと心配してくれていたと、この時に気付いた。
「花上、良かったら外ランチ行かない?」
「行きたいですけど、すみません、お弁当です。」
憧れの先輩である宇佐美に誘われて、お弁当を呪いながらも丁寧に断ると宇佐美は笑顔で倫子のお弁当を持った。
「沢木、これあげる。花上の手作り弁当。で、花上貸してもらうね?」
「いいですけど…昼休憩終了5分前には返して下さいよ?俺の補佐は花上じゃないと務まらないんですからね?」
「あんたが我儘で人使いが荒いだけでしょ?花上行くよ!奢るから!」
手を引かれて強引に連れ出された。
手を引かれながら沢木に声を掛ける。
「すみません、要らなかったらそのまま置いておいて下さい。」
「遠慮なく食う!行って来い。」
と言われた。
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