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中原沙織と新藤、二人の姿がそこにあった。
バレない様にそれでも気になって顔を隠しながらこそこそと見ていた。
真剣な顔で話をしていて、言い争いの様な感じにも見えて、まもなく沙織が泣き出した。
びっくりして顔を前に戻した。
泣き出した沙織は新藤の胸に飛び込み、新藤もそれを拒否せずに抱き締めていた。
(ですよねぇ……。)
ショックではあるが、何処かで冷めた自分がいて、その光景を当たり前の様に見た。
席を立ちお金を置いた。
「ご馳走様でした。」
「ありがとうございました。」
ボーッとしながら店を出る。
挙動不審でもないし、慌ててもいないから新藤も気付く事はなかった。
(それどころじゃないんだと思うけど。)
くすくす笑いながら道を歩いていると、涙が流れている事に気付く。
「あれ?やだ…なんで。別に…何にもないし、まだ数週間の事だし、大丈夫よ。なんで泣くの?止めてよ…やだ…止まって。」
腕で涙を拭きながら歩くと、前方から聞いたことのある音が聞こえた。
ーーパン!!
(え?ぱん?)
顔を上げて視線を前に向ける。
向き合って立つ男女の姿に視線が止まった。
「お付き合いはいいけど結婚は嫌ってどういう事?何年付き合っても結婚はしないならなんで付き合っているの?最低!」
女性が倫子の横を通過して行く。
頭に来ていて倫子の事など目にも入らなかった様だった。
倫子は呆然と目の前の残された男性を見た。
驚いて止めたい涙も止まっていた。
「いって!お嬢様なのに力あり過ぎだろ。」
そう呟いて空を仰いだ男性は、立ち尽くす倫子に気付く。
「あれ?倫子ちゃん!久し振りだね?こんなとこで何してるの?」
あっさりと倫子の横に来て肩を抱いた。
「この手!!これが叩かれる原因ですよ?分かってます?」
左手で右肩の手を摘んだ。
「どこ行くの?送ろうか?」
相変わらずの軽さで言われて、司の顔を見て家に帰ると伝えた。
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