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「ちょ…倫子ちゃん?どこ行ってたの?」
ツカツカと歩く倫子の後ろを司が付いて来る。
「前に司さんに聞いたお店。女のバーテンダーさんがいていいお店だね。」
「あぁ、そっか。すれ違ったんだね。少し前まで俺もいたんだけど…あれ?倫子ちゃんもしかして?」
横に並んで歩く司の顔を一旦、立ち止まり正面に見る。
「なに?もしかして倫也に会ったって聞く?」
「会ったんだ。それで泣いてたの?」
倫子の目の下に指を当てて、司は軽く触れた。
「泣いてない!」
「泣いたでしょ?沙織さんが一緒だったから?あれはお礼の奢りみたいなもんで、沙織さんに相談があるって呼び出されたからで、人妻だよ?倫也、追い掛けて来るんじゃない?」
「来ない!倫也さん、私がいる事気付いてないから!声も掛けないで出て来た。抱き合ってたし?」
スタスタと歩き出すと、司も慌てて後を追う。
「嘘でしょ?だって、俺が会った時は、倫子ちゃんの携帯繋がらないって、実家に帰るって言ってたからそれでかなって、心配してたよ?」
(あ、電源落としたままだ。)
と気付くが、そのままスタスタ歩いた。
「連絡しなよ?」
「人の心配してる場合?二回も叩かれて、しかもあの人お見合い相手でしょ?いいんですか?」
「結婚の話し始めるからさぁ…まだそんな気ないんだよねぇ?お見合いしてひと月で早くない?お友達から〜とか言っておきながら、結婚どうしますか?ええ〜じゃない?」
「好きなら一緒にいたいでしょう。一緒にいたいなら結婚したいでしょう?司さんには分からない?」
「んー分からないかも?」
返答にガックリと肩を落として、もういい、と倫子は先に進む。
「ここ、おやすみなさい。」
着いてきた司にマンションの前で言い、ぶっきらぼうにお別れの挨拶をする。
「連絡、しなよ?」
マンションに入ろうとして後ろから司に言われて、倫子の中で何かが切れた。
振り返り、司の前まで戻る。
「司さん、知ってたんでしょ?倫也さんが沙織さんと何回も会ってた事!」
「え?な、何回も?」
「何回もだよね?光里さんに呼び出された日だけじゃなくて、今日もその前も、そうでしょ?」
司の挙動不審な目の動きで、自分の考えた事が事実だと分かってしまった。
「もういい!ごめん、送ってくれてありがとう。さようなら。」
踵を返してマンションの中に入る。
「倫子ちゃん!何回もじゃないよ?数回!本当だよ。」
そんな声が背中で聞こえた。
「数回……何回もじゃないの。」
エレベーターに乗り、ボソッと呟いた。
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