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悪態を吐く…とはこの事を言うのだと、倫子は頭の隅で思っていた。一人でわぁわぁ泣いて、文句言って、心に引っかかっていた物を全部吐き出した。
ブラックな自分が顔を出して、それはもう悪い言葉使いで、母が聞いたら怒られそうだけど一人だから開き直った。
すっきりしてから実家に電話をした。
大丈夫、平気、明日から仕事頑張ると伝えて、電話を切ると、迷いが出ないうちに倫也に電話を掛けた。
コール音、2回目で直ぐに出た。
『もしもし!倫子!』
「もしもし…電源切れててごめんなさい。元気です。」
向こうで大きなため息が聴こえた。
『良かった。今日も繋がらないならマンションに行こうと思ってた。ていうか、実は一昨日も行ったんだけどね。電気点いてなかったから…。』
と倫也は軽く笑う。
笑えない倫子は無言のままだった。
『倫子?どうした?なんでも話す約束だろ?』
「うん。」
そこで息を吸った。
「倫也さん、考えて?」
『え?何を?』
「倫也さんが本当は誰を好きで、誰と一緒にいたいか。」
『えっ?そんなの…倫子が好きで倫子と一緒にいたいよ?』
「うん、今はね?それが錯覚かもしれないとしたら?冷静になって真剣に考えて?答えが出るまで会わない。」
『何、言ってるの?倫子が好きで一緒にいたいに決まってる。』
倫子の頭の中に、沙織との笑顔が浮かぶ。
「あのね?初めて新藤さんと沢木さんに会った時、従兄弟って聞く前に似てるなぁって思ったの。親戚って何処か似るのかな?」
『何?どうした?』
「聞いて!」
強い口調で初めて言った。
「新藤さんは沙織さんの事、まだ好きだと思う。」
『それ……』「聞いて!!」
倫也の言葉を遮り、大声を出した。
「沙織さん、やり直したいって話してた。新藤さんが私を好きだって会いたくなるって言ったのは、私が…似てるからだよ?沙織さんに似てたから!新藤さんは沙織さんを追い掛けていただけだよ!」
『違う!倫子』
「違わない!冷静に考えて、もう一度。沙織さんとも会って話して。どうせ何回も会ってるんだから増えたって構わないでしょ!忙しいはずの八月に、何度も何度も私に言わないで会ってるでしょ!なんでも話してって…話してないのは新藤さんの方でしょ!」
止めたいのに冷静に話すつもりだったのに、止まらなかった。
どんどん黒い自分が出て来て、興奮と共に言葉になった。
「考えて!誰が好きか、もう答えは出てると思うけど…返事は電話でいい。ラインでもいい。もう会わない。初デート楽しかった…ありがとう…ございました。おやすみなさい。」
『りん…。』
一方的に通話を切り、電源を落とした。
最後まで大人になり切れない…ブラックな自分まで出して。
反省ばかりの夏になった。
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