きっかけ

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きっかけ

仕事を終えて19時前にマンションの前に着くと、白い車が停まっていた。 何気なく見てマンションに入ろうとすると、運転席が開いて声を掛けられた。 「倫子ちゃん!」 振り返ると中原沙織の姿があった。 車から降りて倫子の側に駆け寄って来た。 「急にごめんね?ここで待ってたら会えると思って。勝手にごめんね?実家に電話して電話番号を聞こうかとも考えたんだけど…そこまではって思って…。どうしても聞きたい事があるの。」 「なんでしょうか?」 高そうな白いスーツを着て、比べられない程高いヒールを履いていた。 それを見てしまうと惨めな気分になっていた。 「手早く言うね?倫子ちゃん、倫也に何か言ったりしたかな?」 腰に片手を当てて、もう片手に車のキーを握りしめて沙織は倫子を正に上から見て言う。 「何か…いえ、何も…。」 「そう?私ね、8月になってから旦那と離婚を考えて、働こうと思ってて、倫也の会社に登録してもらえないかとか、どんな仕事が良いかとか相談に乗ってもらってたの。それがね、もう相談には乗れない、登録したいなら担当者を紹介するからって電話にも出ないのよ。困るの。相談に乗ってもらって倫也のとこで登録して、それから離婚を進めるつもりでいたから。倫子ちゃんが何か言ったんじゃない?近付かないでとか?」 少し睨まれて言われて、唇を噛んだ。
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