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「なんで沙織が?司!」
新藤は沙織が来た事に驚いていた。
もう会わない、そう話していたからだった。
司の方を向いて表情で威圧していた。
「だってさ、離婚の話、したんだって。だから急ぎで働きたいって。今まで相談に乗ってていきなり手を放すのは可哀想だろ?就職決まるまで面倒見てあげてもいいじゃないか?大事に思ってた人だろ?」
「お前はそんな考えだからいつも叩かれんだよ。今は他にもっと大事な人がいる。」
はぁ、とため息を吐いて、倫也は司をチラリと見た。
「倫子ちゃん?会わないって言ってたけど?」
沙織が言うと新藤は目をカッと開けて沙織の方に顔を向けた。
「沙織?倫子に会ったのか?」
「会ったわよ?何がいけないの?懐かしい再会だもの。倫也に責められる言われはないわ。」
「どういう…。」
事だ、と言おうとして、沙織の後ろから近付く人影に新藤は目を奪われた。
「倫子?」
その声に沙織と司が振り向くと、笑顔の倫子が立っていた。
「こんばんは!偶然ですね?もう帰るとこなので挨拶だけと思いまして。」
「倫子?」
「そう?帰るのね。お引き留めは出来ないわね。わざわざありがとう。気を付けてね。」
「はい、さようなら。」
ドアに向かう倫子の手を倫也が捕まえる。
「倫子、連絡して?どうして出てくれない?」
「答えが出るまで連絡はしないとお伝えしました。」
「答えは出てる。俺は倫子が…」
「それは錯覚だと思います!沙織さんを好きな気持ちを持ったまま勘違いしたんです!今も沙織さんに会ってる。忙しくても会ってる。」
「それは…。」
「言い訳はいらないです。それが事実です。もういいので…答えは出ているみたいですね。終わりにしましょう。最初から子供じみた付き合いに無理に合わせてもらってました。申し訳なかったです。沙織さんとやり直してお幸せに。」
抑揚のない声で淡々と倫子は一方的に告げた。
「倫子は?倫子の気持ちは?それでいいのか?」
新藤に捕まれた手を振り解いて、笑顔を見せた。
「勿論、今までありがとうございました。とっても楽しかった。さようなら。新藤倫也さん。」
それだけを言い、倫子は店を出た。
(最後…笑えてたよね?大丈夫だよね?)
ドアが閉まると同時に涙が溢れた。
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