きっかけ

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(馬鹿な事を、してるんだろうなぁ…。) と思いながらトボトボと歩いた。 少し振り返り、追いかけて来ない事が答えだとも思えた。 (灯里も言ってたな。相手が三十じゃ、すぐ結婚になるかもしれない。私にはそこまでの気持ちはまだない。まだ怖いし考えられない。結局は…私が悪かったんだ。中途半端なままお付き合いを始めた。これでいい。別れた方がいい。新藤さんは沙織さんと…私は暫く恋愛はいい。) モヤモヤが少し晴れた。 開き直り、大悟にお別れした時と同じ、精一杯の強がりの笑顔。 暫くはあのお店に行く気持ちにはなれないなと考えながら歩いた。 半分程来て、後ろから足音がして振り返る。 (そんなはずないよね?) 心はそう思うのに期待してしまう。 ドキドキした心にゆっくりと足音が大きくなり、少しずつ足元から姿が見える。 (黒のズボン…新藤さんじゃない。) 「倫子ちゃん!あぁ、追い付いた。送るよ。」 汗を流して走って来た司だった。 「まだ時間早いし平気。」 「もう9時近い、だぁめ!女の子なんだから。」 「新藤さんは司さんとお話しじゃないの?いいの?」 「あぁ、大沢由香里さんの事とかね?」 「あぁ〜あれね?」 というと、不思議にくすくすと笑えた。 「笑う?俺は痛い思いをしたんだけどね?」 「それは仕方ないですね?お付き合い止めたんですか?」 「うん、けど、親同士の話し合いになってる。」 「わぁ……。」 心の底からわぁ〜と思った。 それなら新藤に相談しても真剣な顔の話し合いも当然かと思った。 「大変ですね?良いお家っていうのも…。あ、でもお見合いの後、安易にお付き合いした司さんの自業自得とも言いますか?」 「言うなぁ…。そうなんだけどさぁ。倫子ちゃんは?倫也がいるって思って来たんでしょ?」 と言われて下を向いた。 「お別れ言おうと思って…待ってても倫也さん、何も言って来ないし待ってる間も辛いし、どんどん嫌な人になってく気がしてもう嫌だなって…勝手だけど沙織さん、返してってそんな事言えるほど、自信、あるって事だよね?二人の積み上げて来た時間とか、私の知らない事たくさん知ってて、敵わないって思ったし。」 「返してって沙織さんが言ったの?」 無言で頷くと、司はため息と共にそうかぁ、と空を見上げた。
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