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「ごめん、司さんが困るよね?」
泣き止んで言うと、司は笑顔を向けた。
「大丈夫。二週間もしたら別れたって言うから。それにあの程度で浮気を信じるとかさ?いくら倫子ちゃんが言ったって分かりそうでしょ?」
「…どうかな?喧嘩にならない?」
それ位、どうでもいいんだよ、と心の中で呟いて倫子は訊き返した。
迷惑をかけてはいけないとここで思い至った。
「別れた相手の事で喧嘩にはならないでしょ?倫也が倫子ちゃんの事、過去だと言うなら喧嘩にはならないよ。心配しなくて良いよ。倫也、余裕ない位、気付かない位、倫子ちゃんを好きだと思うよ?」
笑顔で言われて、胸はズキンと痛んだ。
痛んだけど、前半はその通りだと思い、後半は軽い司の心遣いかと思えた。
お礼を言いお詫びを言い、司と別れた。
部屋に入り、ぼんやりと座り込んでいた。
どれ位経ったか、スマホが鞄の中で鳴っていた。
ユラッと四つん這いになり、鞄を引っ張り、スマホを取り出した。
画面には新藤の文字が少し見えた。
震える指で開く。
ーーー
『沙織に相談を持ちかけられて、仕事の事だけど数回会っていた。その俺が、不安になった倫子が司に相談して会ってて、好きになったとしても責める資格はない。何で司だって、正直思ったけど、優しい奴だから…きっと倫子を大事にしてくれる。沙織に会ってた事、言わなくてごめんな?好きとかじゃない、それは誓える。確かに別れた時はショックだった。だけど倫子に会えた。本当に倫子が好きだった。ごめんな?沢山傷付けた。司が何かしたらいつでも言って?幸せに…。』
ーーー
読みながら涙が溢れて来た。
終わりなんだ。
いつもの10時の連絡、これで最後。
ーーー
「言ってない事、私もあったからお互い様です。沙織さんとお幸せに。沢山幸せをもらいました。臆病でごめんね。綺麗な夜景、ありがとう。一生忘れない。さようなら。」
ーーー
送ってから電源を落とすと、その手をぎゅっと握りしめて振り上げ、スマホをアイランドキッチンの方に思いっきり放り投げた。
ーーガシャン!!
と大きな音を立てて、スマホはキッチンの壁に当たり、床の上に回った。
「電話で別れ話をするなんて、それで終わりなんて嫌だったって言ってたじゃない!自分だって……。顔見たら泣いちゃうけど…嫌だって言っちゃうかもしれないけどぉ〜。新藤倫也のばぁか!ばかばか!おっさん!禿げろ!沙織さんと幸せになれ!タバコ止めろ!ちゃんと寝て…元気でいて…。」
五分程一人で泣いて、鼻を噛んで涙を拭いた。
泣き顔で冷蔵庫の前に行き、缶チューハイを空けた。
その場で座り込んで飲み始めて、二本目を飲み終えて丸まって眠った。
新藤に酷い事を言った。
灯里と同じ、知っていてわざと言った言葉。
沙織さんが別れ際に言ったと聞いたから、それを言えば嫌われるかもと思って言った。
言いたい訳じゃなかった。
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