大人になるって

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「でさ、司が言うには、花上は倫也が本当に好きな人は沙織さんだって言うんだ。最初の頃さ、よく分からないけど顔が見たいとか会いたくなるとか言ってたんだよ、倫也。」 「それがなに?好きなら会いたいでしょ?」 意味不明な顔を沢木に向ける。 「倫也は知らないと思うけど、司が言うには沙織さんと花上は親戚だったらしい。沙織さんと別れた傷心の倫也が偶然花上と出会い、沙織さんに似てる部分を見つけた。それで会いに行った。恋と錯覚して…とまぁ、花上が解釈したらしい。司が言うには沙織さんが返して欲しいとか言ったらしいから、花上に他にも何か言ったんじゃないかって。離婚したら結婚する約束をした、とかな?」 「ふぅん……。倫也さんは知らないんだ、そこ。」 「みたいだな。」 「花上と別れて、傷心の倫也さんに離婚したわ、お付き合いしましょうとか言う気なんだ。それで倫也さんが昔みたいにその気になれば万々歳って感じ?こっすい女ねぇ。」 「教えるのか?花上に?倫也に?」 聞くと予想外の返事が返って来る。 「教えないわよ?それで倫也さんがその女とくっ付いたら所詮はそれだけの男でしょ?最初から花上なんてその程度だったって事でしょ?花上もね、本当に好きなら奪う位の気持ちがないとダメよ。男の本心ほじくり出す位じゃないと恋愛は争奪戦なんだから。誰かが幸せになれば誰かが泣くの。前の時もそう。親友叩いて出てけーって追い出して、彼氏と延々話せば良かったのよ。別れるにしてもね。中途半端だから付き纏われる。まぁ、初めての彼氏で初めての別れで仕方ないかなぁとは思ったけどね。」 「珍しく花上に厳しいねぇ。」 怖いな、と付け加えて言うと、宇佐美は微笑んで答えた。 「幸せになって欲しい。花上自身の力でね。這い上がれると信じてるから崖から落とせるのよ?」 言われて沢木は思い出す。 新入社員の花上を指導していた宇佐美はそれは厳しいものだった。 部長もハラハラしていたし、よく着いていくと周りも思って見ていた。 だから沢木の補佐にと部長が言い出した時も、あの厳しさに着いて行った花上なら、自分の厳しさにも着いてこれるかもしれないと思ったのを思い出していた。 「あのさ?一応、言っておくね?面倒嫌いだし。」 「ん?」 「花上が沢木を好きとか言い出したら私は沢木を差し出す。迷いなくね?それから花上に何かあったら沢木と約束していても花上を優先する。そこも迷いなくね?いいのかな?そんな女で…。」 「俺に何かあったら?」 「……花上と約束してても沢木を優先する。」 「ならいいわ。」 手を挙げて沢木はミーティングルームから出て行った。 宇佐美は口元を綻ばせて、赤い顔が戻るまで暫くそこにいた。
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