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マッチングの人とこっそり会う約束をして、スーツでは目立つのでラフな私服に着替えて倫也は喫茶店の窓際にいた。
窓際を選んだのは、相手の会社の人間が見て、あんな目立つとこで引き抜きの話はない、と言う考えと、相手がラフなスタイルだから友人かな?と思われる様にだった。
相手にもそんな風に予め話してあり、会社に聞かれた時に話す言葉も伝えてあった。
引き抜き、ヘッドハンティング、そう聞くとイメージが悪い気がするが、欲しい企業からのラブレターを届ける仕事だと倫也は考えていた。
断る権利、受ける権利、決めるのは相手だ。
相手の都合で会う為、会社を抜けて来るのだから時間に余裕を見て早く待っていた。
約束の時間を過ぎても相手はまだ来ない。
こんな事も珍しくはない。
ゆったりとコーヒーを飲み待っていると、交差点の向こう側に見知った人が立っていた。
その人に倫也の目は釘付けになった。
まだ残暑の残る9月の終わり、少し伸びた髪を一つに纏めて、白いワイシャツとベージュのロングスカート。
鞄を肩に掛けて、汗を拭きながら信号が変わるのを待っていた。
(倫子……。)
こちらに歩いて来る倫子をジッと見つめる。
(顔色悪い…なんか、フラフラしてないか?痩せた、よな?司、大事にしてんだろうな?まさかもう浮気?あるな…あいつはそういう奴だ!)
白かった肌がますます白くなっていて、陽射しが当たると倒れてしまいそうで心配になった。
出て行って手を貸したい衝動を抑えていると声を掛けられた。
「お待たせしてすみません。」
「あ、いえ、どうぞ。」
相手を見て目を外に向けると、そこに倫子の姿はもうなかった。
(沙織と会ってた俺を許せなかったんだろうな。)
仕事を終えて外に出て、陽射しを浴びるとやはり心配になり、スマホを取り出してその番号に思い切って電話を掛けた。
現在使われておりません、という無機質な声が耳に届いた。
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