大人に。

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「アホか?二十歳になりました。さぁ、今日から大人です。んな訳あるか。そんな事に拘って自分から別れるって言ったのか?アホだぞ?」 道治が呆れた様に呟くので、ヒック、ヒック言いながら顔を上げた。 「あのな、急に線引かれて大人です、子供です言われても無理だよ。少しずつ大きくなる過程で叱られたり注意されたりしながら、学んで痛みを覚えて少しずつ大人になるんじゃないの?俺みたいに、子供が産まれてやっと自覚して、努力しながら大人になろうとするのもいれば、菜緒みたいに、環境上、大人になるしかなくて周りに大人にされる奴もいる。それは人それぞれだろ?いい歳した大人でも恥ずかしい事をする人もいる。」 「それ…私だ。」 しゃくり上げながら、駄目な自分だと返事をした。 「そうか。お前の恥ずかしい事はきっと可愛いレベルだと俺は思う。兄の欲目だな。そういうの繰り返して、お前は大人になればいい。ゆっくりでいいさ。そういうお前がいいって人が絶対いるし、お兄ちゃんは真面目で真っ直ぐな倫子をいつも凄いと思ってたぞ?真面目がダメなんてパンチしてやれ!」 子供の時にも言われた事を思い出した。 ーー「泣くな!真面目がなんで悪いんだ。そんな奴パンチしてやれ!」 「あと、お前は真面目過ぎるから自分の中で完結させる癖がある。最後まで話は聞け、聞いたよではなく、相手には言えない言葉や出してない言葉もあるんだ。大人なら余計にな?本当に終わったのか?終わってないから泣くんだろ?だったら…。」 兄が話した後に続けようとすると、後ろから別の声が聞こえ始めた。 「倫子、別れるなら心の底の底までひどい事でも相手の本音を全部聞き出してから別れなさい。」 いつの間にか父がいて、兄と二人で声の方向を見てきょとんとした。 「それ傷付くだろ?ひどい事言われたら…。」 青い顔で兄が訊き返す。 「いいんだ。傷付いた方が早く立ち直れる。骨折と一緒だ。そして強くなれる。強くなれば優しい人になれる。治るまで家に帰って来ればいい。何度でも骨折を繰り返して本当に大事な人を見つければいい。言いたい事も聞きたい事も全部お互いに言い合って別れておいで。今のままでは駄目だ。真面目な倫子はお父さんの自慢だよ。」 父に言われてまた号泣してしまった。 せっかく止まっていたのにだ。 「少し見た位でそんなに泣くならきっちり振られて来い!ちゃんと別れておいで。それまで帰ってくるなよ?」 パシンと襖が閉まるときょとんとする倫子の目に、悪魔の笑顔の兄の顔が映る。 「じゃあ、行こっか?倫子。」 「へっ?」 間の抜けた顔をすると、耳許に顔を近付けて悪魔が言う。 「善は急げ!鉄は熱いうちに打て!振られる時はすっぱりと。骨は拾ってやるからな?」 ズルズルと手を引かれて、抵抗しても男と女。 圧倒的な力強さで車の後部座席に放り込まれていた。
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