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そもそも二人きりではなく、大勢で飲んでいる最中なのだ。周りにも聞かれる以上、秘密も何もあったものではなかった。
だから「絶対に秘密なんだけど」という枕詞からして、言葉の選択が誤っていたことになる。
とある小説投稿サイトのオフ会だった。
この手のイベントに参加するのは、俺にとって初めての経験だ。
日頃はネット上で、お互いの顔どころか声もわからない状態で、文字だけのやり取り。そんな連中と直接対面することを考えると、躊躇や緊張も感じたけれど、それよりもドキドキやワクワクといった期待感の方が大きく上回っていた。
いざ指定の居酒屋に到着して、用意された一室に案内されてみれば、思った以上に和やかな雰囲気。しかもザッと見回した感じ、俺と同年代の男女が多い印象だった。
適当に空いている席へ、端から詰めるようにと言われて、俺が座らされたのは……。
思わずハッと息を呑むほどの、すらりとした美人の隣だった。
やや面長な顔つきに、スーッと通った目鼻立ち。肉付きの良い唇や、艶やかな長い黒髪も魅力的で、全身を包む緑色のカジュアルドレスもよく似合っていた。
しかも自己紹介で名前を聞いて驚いたのが、彼女はサイト上でも、ちょっとした有名人であること。投稿作品の更新頻度が高いだけでなく、サイト内で私的なイベントをたくさん企画していた。俺も何度かお世話になったことがあるくらいだ。
小説投稿サイトで用いているペンネームは「ミスS」だが、みんなからは「Sさん」と呼ばれているユーザーだった。
俺自身、小説投稿サイトにおけるやり取りでは、他のユーザーに合わせて彼女を「Sさん」と呼んでいたし、ペンネームの「ミスS」に関しては「独身女性を示す『ミス』だろう。小説投稿サイトの中で敢えて『私は未婚です』と強調するみたいにアピールするのは、ちょっと意味がわからないが……」くらいに思っていた。
しかし実物の彼女が、これほど美しいのであれば……。もしかすると昔どこかのミスコンで「ミス〇〇」に選ばれたことがあり、それを今でも誇る気持ちの表れとして「ミスS」と名乗っているのかもしれない。
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