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こちらに向ける彼女の顔を見ながら、改めて色々と考えることで、俺は少しだけ現実逃避していたが……。
俺の心を占めていた一番大きな気持ちは、まさに痛恨。「ああ、やっちまった」という想いだった。
なにしろSさんは、ハッピーエンド至上主義。彼女の「物語の主人公とヒロインは、絶対に幸せに結ばれて終わるべき!」という主義主張は、その作品をいくつか読むだけで一目瞭然だったのだから。
まあ「一目瞭然」といっても、読者の読解力は人それぞれだ。作品の意図を読み取れず、感想欄で彼女とコメントの応酬になり、いわゆるレスバトルを繰り広げる者もいたが……。
そのような場合、一般的には作者の方が、周囲の目には「みっともない」と映るはず。「小説の書き手ならば、コメント返信でなく作品そのもので全て伝えるべき」みたいに思われるのだ。
しかし彼女の場合は違っていた。むしろ「毅然とした態度」と好意的に受け入れられてきた。
それほど彼女の文章が理路整然としていたからだろう。感情的なレスバトルではないからこそ、どこも悪く見えなかったのだ。
そんなSさんが相手では、酔っ払いの戯言なんて一蹴されるに違いない。
俺は内心、ビクビクと怯えてしまうが……。
しかしSさんが具体的な不満を口に出すより先に、反対隣から別の言葉が飛んできた。
「どうしてです?」
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