第1幕 ~盾のβ~

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第1幕 ~盾のβ~

 薫の期待通りに、隼人は学園生活において、優秀な盾となった。  彼等が通う私立の名門男子校では、性に対しての階級意識が特に厳しかった。Ωの入学は端から認められておらず、αの男とβの男だけの学園の中で、クラス分けは至ってシンプルだ。αだけの特進クラスと、βだけの普通科クラスではっきりと線引きされていた。  学ランの詰め襟に付けられた組章が、彼等の性別を示している。赤い組章はαであり、青い組章はβであった。同じ学園に在籍していながら、双方の接点はないに等しい。  それが、薫にとっては、幸いしていた。βと偽って普通科クラスに在籍していれば、αとの接点は、ほとんどなかった。Ωであることさえ、暴かれなければ、平穏に過ごすことができる。薫は、目立たないように息を潜めて、ひっそりと生きることにした。  薫の美貌は目立ってはいたが、隼人は華やかなオーラを纏う男であったので、その影に隠れるようにして、薫は大人しい生徒を演じた。  更に、彼等は「β同士の親友」を演じることで、周囲を欺こうとした。茶番でしかなかったが、彼等は好きな女のタイプの話をしたり、Ωを相手にしてみたいなど、下世話で、クダラナイ冗談を言い合って、いかにもβらしさを演出した。  クラスメイトは、薫をβと信じて疑わなかったし、まさか、Ωが学園に混ざっているとは、考えもしなかった。  けれど、それでも、完全に安全とは言えない。稀に廊下でαとすれ違うときに、αの生徒や教師がじっと薫に見蕩れているときがあった。βとは違い、彼等は、薫から僅かに香る甘い匂いを敏感に嗅ぎ分けているらしかった。  それでも、薫をΩと気づけているわけではなく「綺麗な男だな」程度のものであった。隼人は、薫に向けられる熱い眼差しを感じ取ると、スッと間に入り、大きな体で壁を作って、その視線からも逃がしてやった。  そうして、薫は比較的安全に、学園生活を送ることが可能となったのだ。
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