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河島隼人は、薫の盾ではあったが、ただの便利な道具ではなかった。何かを他者に要求すれば、何かしらの対価を要求されるのは、当然のことである。
薫の生活する部屋は、他の部屋とは違い、物憂げで、淫らな空気が常に充満している。若い雄と若い雌を狭い空間に押し込んでおけば、そのような空気になるのは、必然的とも言えた。
二人部屋には、左右の壁に1つずつシングルベッドが備え付けられている。薫は右のベッドで、隼人は左のベッドだった。隼人は、背を向けて眠る薫の寝床に、遠慮がちに潜り込む。そうして、探るような手つきで、身体を触り、淫らな悪戯をしようとする。
薫は、嫌悪感から男の手を払い除ける。薫は、若いβの男の性欲を侮っていた。Ωは一次的に強烈な性欲が沸き立つものの、日常的には性欲は薄い生き物である。
対してβは、(Ωから見れば)爆発的な劣情はない代わりに、日常的にふつふつと弱い波のような性欲が沸き立つ生き物であった。思春期の若いβは多感で、毎日でも精液を吐き出したい年頃だったし、そんな彼の目の前に、いかにも艶かしい雌がいれば、手を伸ばしたくなるのは仕方のないことであった。
しかし、薫にとっては、兄以外の男と行為に及ぶのは、気持ちの良いものではなかった。いや、どちらかというと、耐え難い苦痛だった。Ωにとって、番の契約は絶対で、他の雄を拒絶する。
そうでなくても、彼はΩであっても、男だったし、平常時のメンタルティも、どちらかというと雄だった。
それでも、週に一度は、隼人に足を開いた。そうしなければ、無理矢理にでも犯されてしまいそうな気配を感じていた。隼人が盾ではなく、剣になってしまえば、薫の学校生活は暗いものになるだろう。
αに暴力的に犯されるよりも、βの彼に奉仕する方が幾分かマシだと割り切っての行為であった。
隼人のぺニスを口内で愛撫する。睾丸をマッサージしながら、亀頭に舌を這わせたり、裏筋を舐め上げたりと、上品な顔からは想像もできないような、淫らで下品なしゃぶり方をした。そうして、男を固く勃起させると、隼人を上目遣いで、見つめながら、その艶かしい唇を使って、コンドームをつけさせた。
隼人は、あまりの光景に息を飲む。薫は妖艶に笑いながら、隼人の腰に跨がった。自らアナルを広げて腰を落とし、ぺニスを咥え込んでいく。
淫乱なΩらしさを演出して、薫は色っぽく喘いで、感じている演技をする。アナルは濡れず、痛みを伴うが、それでもΩの防衛本能で、しばらくすれば、愛液が溢れ出てくる。薫は悩ましげに、ゆっくりと腰をくねらせる。
呻き声とも喘ぎ声ともつかない2つの甘い声が、重なるように部屋に響く。薫の性欲が高ぶるにつれ、βですら頭をクラクラさせるような甘いフェロモンが沸き立っていく。
隼人は、薫の肢体に手を伸ばす。淫らに喘いで、身体をよじる薫は、美しい。隼人は、薫の胸を可愛がり、先走りに濡れたぺニスを弄ぶ。優しい愛撫は、βの特性なのだろうか。
フェロモンが充満した部屋で、薫の乱れる姿に充てられて、隼人は、長くは我慢できない。
「薫、動きたい……ッ」
隼人の懇願に、薫は、薄暗い優越を満たす。
抱かれているんじゃない。
抱かせてやっているんだ。
端から見れば、対した違いはなかったが、薫にとっては唯一の心の支えだった。主導権を握っているのは、あくまでも、Ωの自身なのだと。
隼人の耳許で、薫は熱っぽく「動いていいよ」と囁いた。
隼人は堪らず、薫を組み敷いて、ゆっくりと腰を打ち付ける。ぐちょぐちょと繋がった箇所から愛液が溢れて淫靡な音が響く。
けれど、薫は、もっと、激しく突いて欲しかった。痛みを伴うほどに乱暴に扱って欲しいなどと、身体はαの激情を求めて疼く。
「ん、あ、あ、あ、……ッ」
隼人に揺さぶられながら、朦朧とした頭で、薫はいつも思うのだ。
なぜ、いつも、俺ばかりがこんな目に遭わなければならないのか。
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