第1幕 ~盾のβ~

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 16歳の彼等に、恋や愛を理解するのは難しい。けれど、性欲や所有欲のようなものは、容易く理解できた。  思春期の彼等は、いつでも自分を中心にしか世界を見ることができない。男と女が、いつまでも平行線を辿って理解し合えないように、α、β、Ωもまた理解し得ない一線が存在する。  相手の性に対する、思い込みによる侮りと、知り得ない未知に対する畏怖から、彼等は相手を理解することを、意図も容易く放棄する。  河島隼人の話を少ししよう。彼は、普通のサラリーマンの家庭に育った普通のβの少年だった。父もβで、母もβだった。  公立の中学に通っていた彼は、一部のαとの接触はあっても、Ωとの接触は初めてのことだった。Ω性のことは詳しくは知らないが、世の中に氾濫する如何わしい雑誌やネット上では、Ωは兎に角、いつでも男を欲しがる淫乱な生き物であった。  AVに出演する女優や俳優の多くがΩ性であり、社会的な地位の低い彼等の少ない居場所であることも、そのような誤解を生む要因なのかもしれない。Ωは常に発情期だけがクローズアップされる。  だから、隼人は、薫の釣れない態度が気に入らない。もっと、自分を求めて欲しかったし、もっと触れ合いたかった。「Ω性」という甘い響きと、薫の美貌と、色めきたつ淫らな肢体に夢中になって、毎日でも、その身を抱き締めて、思うままに薫を喘がせたかった。そういう欲望は、恋にも似た、甘さと切なさがあった。  薫が思っている以上に、隼人の不満は大きい。薫は、隼人とのセックスを頻繁に拒否し、その癖、自分の都合の良いときだけ求めてくる。  薫からすれば、精一杯の努力であったが、Ωを淫乱だと思い込んでいる隼人にとっては、まるで、自分が性欲処理のために扱われているような不快感があった。  それに、キスをするときに、薫は無意識に顔をしかめるのだ。隼人には、それが酷く屈辱的で、腹立たしかった。完璧な娼婦を演じているつもりの薫は、そのことに気づけない。  自分がαだったなら、薫の首筋に噛みついて、身も心も自分のモノにできるのに。そうしたら、毎日でも、薫は喜んで足を開くのだろうか。嫌がらずに、甘いキスをしてくれるのだろうか。  隼人はギリッと奥歯を噛み締めた。  いつか、薫は自分ではないαと番になるのだろうか。
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