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夜景が見える広いバスルームでシャワーを浴びた後、薫はいつも少しだけ緊張してしまう。薫は、下着とYシャツを着込むと、重い足取りで寝室に向かった。寝室のドアを開くと、響がベッドの端に腰かけて微笑んでいる。
薫は何度目かの抵抗を僅かに見せた。
「……もう、1人で塗れるから、」
「でも、自分じゃ塗れないところもあるだろ?」
響に見守られながら、薫はベッドの上で戸惑気味に、シャツと下着を脱いでいく。洗い立ての瑞々しく、仄かに上気した肌の上には、花びらのように噛み痕が散らばっていた。そのまま瘡蓋になっているものもあれば、雑菌が入ったのか腫れていたり、膿んでいるものもあった。
響は一つ一つ傷痕の具合を確かめながら、軟膏を塗り込んでいく。響は医者の卵であり、医療行為として自らに触れていると頭では理解していたが、自分だけが全裸になって、身体中を撫で回されることに、薫は抵抗感と羞恥心がない交ぜで沸き上がる。
久方ぶりの番との再会に、劣情を抑えられずに、響と肌を合わせて、甘い快楽に鳴かされたのは、つい先日の出来事で、薫は、番としての響を意識してしまいそうになる。
真面目な顔で治療してくれている響に、そんな淫らなことを意識していると悟られてしまうのは、あまりにも恥ずかしく、薫はいつも無意識に身体を強張らせてしまうのだ。
それでも、4日も経てば、傷口の腫れも引き、傷めた肩も動かせるようになっていた。内股や臀部に残る鞭痕も、引きつった線が薄く残るほどである。響は綺麗に傷が塞がった薫の肌を満足そうに撫でた。
「だいぶ、治ってきたな、」
「……じゃあ、もう寮に戻ってもいい?」
響の言葉に、薫は弾かれたように顔をあげた。「この部屋で静養するのは怪我が治るまで」という約束事であった。どこか嬉しそうに顔を綻ばせる薫に、響の眉はぴくりと動いた。
「しばらく学校には行かなくていい」
「…………ぇ、」
低い声で呟かれた言葉に、薫は動揺を隠せない。薫の様子に、響は直ぐに微笑みを作って、諭すように薫の頭を撫でた。
「俺が上手く根回ししているから、薫はここで、ゆっくり休んでればいい。」
薫は、すうっと血の気が引いていくのを感じた。いつまで、ここに居なければならないのだろうか。
「…………でも、あまり休むとクラスで目立ってしまうし、授業にも、ついていけなくなるし、」
薫は目を泳がせながら、響が納得してくれそうな言葉を探した。
「薫は俺の言う通りにしてればいいんだ。それとも、学校にも、神崎にも、いられなくなっても構わないのか?」
響は言った後に、自身の言葉がまるで脅し文句のようなニュアンスであったことに気がついた。
「俺は、薫のことを思って、」
「……うん、」
薫は怯えたように俯いて、脱ぎ散らかされたシャツを掴んで肌を隠した。
「明日にでも、薫の部屋から教科書やノートを取ってきてやるよ。勉強なら、俺が教えてやるから。」
響は薫の機嫌を取るように、優しく語りかける。
「スマホも、」
「……スマホ?」
「うん、スマホも取ってきてほしい。」
薫は上目遣いで響を見上げた。甘えるような濡れた瞳に、響は小さく息を飲んだのだった。
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