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第2幕 ~運命の番~
高校2年生の春のことだった。いつかの春のように、窓の外には、青い空が広がって、桜の花弁が舞い散っていた。
不幸なことに、薫は運命の相手と出会ってしまった。
それは、4時限目の必須科目の授業が終わって、化学実験室から教室に戻るところであった。40人のβの群れが、だらだらと小間切れに廊下を通過していった。
隼人は、周りのクラスメイトたちと談笑していた。彼等のクダラナイ冗談の掛け合いが面白く、一際大きな声で笑い合っていた。
隼人は、少し油断していた。薫は隼人の後方で、微笑みを浮かべている。楽しそうな友人たちの背中を見守りながら、後を静かについて歩く。気配を消すように歩くのは、薫の処世術だ。少しでも目立たないように、と心がけているが故の行動で、いつものことだった。
丁度、生徒会室の前を横切ったところであった。扉が開き、中から男が現れる。薫は顔だけ振り返る。
目と目が合った。
3秒見つめ合って、彼等は全てを理解した。言葉は必要なかった。男は薫の腕を掴み、生徒会室の中に引き釣り込んで、扉を閉めた。
隼人が、ふあっと薫の甘いフェロモンに気がついて振り返る。そこには、薫の姿はない。
「薫……?」
隼人は、忽然と姿を消したΩの男の名を呼んだ。けれど、返事はない。周りのクラスメイトたちに尋ねても、彼の姿がいつ消えたのか、誰も意識していなかった。
「薫ッ」
隼人は青ざめて、廊下を走り出した。悪寒のようなものが背筋を走った。もう二度と、薫に会えないような、焦燥感に駆られたのだ。確信めいた、嫌な予感がした。
薫が、誰かに奪われる。
俺の薫が、いやだ、絶対にいやだ、
隼人は薫を探し続けた。薫が他の男のものになるなど、絶対にあってはならない。
隼人は学園中を探し続ける。けれど、ついに、薫を見つけることはできなかった。
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