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生徒会室の中には、運命の相手と出会いを果たしたαとΩの二人がいた。彼等は、言葉を交わすこともなく、うっとりと見つめ合った。
薫が熱っぽく見つめる男は、端整な顔の持ち主だった。優等生らしくナチュラルな黒髪に、優しげな目元は、どこか薫の兄を思わせる雰囲気を持っている。
学ランの詰め襟には、3つのバッチ。右には、校章が、左には、赤い組章と桜の形を模した委員章が光る。「会長」と彫られた委員章は、この学園の生徒を統べる男だと誇示していた。
男は、薫から授業で使った教材や文房具を取り上げると、近くにある机に乱暴に投げつけた。それから、向き直って、薫の頬に手を添えると、奪うように唇を重ねて、舌を差し込み、口内をじっくり味わった。
薫は溺れる人のように、夢中で男の舌に応えて絡みついた。くぐもった甘い吐息が薫の喉の奥から漏れて、男を喜ばせた。
唇が離れると、男は薫を抱き寄せて、首筋に顔を寄せる。薫は発情期ではなかったが、運命の相手を前にして、心は高揚し、うなじの辺りから甘いフェロモンを沸き立たせた。Ωの最大のセックスアピールであるフェロモンは、αを誘惑するためのものである。従って、目の前のαが脳を蕩けさせて、獣になるのは必然であった。
男は強引に、部屋の隅にある古い本革のソファに薫を押し倒し、薄く口角を上げた。優しげな瞳に飢えた狼のような鋭い光が差し込む。
喰われる薫は、少し怯えながらも、身体を火照らせた。男の手は、品性方正の象徴である学生服に伸びる。黒い学ランのボタンを外せば、白いカッターシャツが露になる。小さなシャツのボタンを上から4つ外したところで、男は焦れったさに堪えられず、無理やりシャツをたくし上げた。
「綺麗だ」
捕らえた獲物の上等な肢体に、男は優越を感じていた。シャツから覗く、白い肌はうっすらと上気し、男のはずなのに、女のように艶かしくて、倒錯した美しさに、男は興奮した。制服ズボンのベルトを外して、薫の下半身おも露にする。
薫は抵抗などしない。自ら足を開いて、勃起したペニスと、疼くアナルを晒した。男は息を飲み、自らのベルトを外し、下着と一緒にズボンを下ろした。いきり立ったぺニスを薫に見せつける。
薫は、熱い溜め息を漏らし、期待に腰がピクリと揺れた。
「あ、あああッ…」
薫は身体を仰け反らせた。男のペニスが薫の中に捩じ込まれて、貫かれた。瞬間、薫の中で、耐え難い嫌悪感が沸き上がり、冷や汗がどっと溢れだす。
薫の身体は驚いていた。
目の前の雄を受け入れようとしながらも、固く雄に拒絶を示し、快楽と苦痛が綯い交ぜに押し寄せてくる。愛液が溢れ、身体は火照り、甘く喘いでいるのに、心臓は冷えて、寒気がする。悪寒を感じながらも、背筋に電流が走る。
「あ、あ、あ、あ、ああッ」
男は薫の反応に気を良くして、遠慮など微塵も感じさせずに、腰を打ちつけた。αにとって、愛情とは、相手を奪い尽くすことである。
額に脂汗を滲ませ、涙を浮かべて、苦悶に顔を歪ませながらも、薫は甘く喘いでいる。
「名前は?」
「……か、神崎 薫…」
男は抱いているΩの名を確認した。
「薫か……」
男は美しい名前に、満足げに笑った。
繋がったまま、薫の身体を反転させ、四つん這いにさせると、後頭部を押さえつけて、腰を突き上げさせた。
「ん、あ、あ、ん、」
αは、無遠慮に腰を打ち付ける。さも、獣の交尾のように、男は薫を犯した。ねっとりと絡み付く薫のアナルに、雄は恍惚とした笑みを浮かべる。捕らえた獲物は、甘く、美味しい。
「結城 博己だ……」
「ひ、ひろき……?……あ、あ、あ、ん、ッ」
自分を犯している雄の名前を、薫は心に刻み付ける。快楽と苦痛に耐えながら、薫は自分のペニスに手を伸ばす。ぐちゅぐちゅと、自身のペニスをしごいて、慰めた。
「ん、あ、あ、いいッ……あ、あッ……」
きゅっとアナルを締め付けられて、男は喜んだ。上品な顔立ちの薫が、アナルを乱暴に犯されながら、いやらしく自分のぺニスをしごき、だらしなく喘いで、悦んでいる。Ωはやはり淫乱な生き物だと、男は薫を愛しく思った。
博己は、薫の喉元を後ろから手で覆った。それから、ぐっと後ろに引いた。薫は顔を仰け反らせ、繋がったまま、身体を引き起こされた。
博己の胸に、薫は背中を預ける格好になる。博己は、薫の中途半端に肌蹴ていた上半身の着衣を脱がせて、床に落とした。薫の美しい背中と、うなじが露になる。博人は薫の肩胛骨の辺りにキスをして、それから、艶かしいうなじに舌を這わせた。
「わかってるな、薫……」
うなじから発せられる甘ったるいフェロモンに、αは鋭い牙を剥く。
「あ、や、やめ……ッ」
恍惚としたαは、美しいΩのうなじに噛みついた。甘く戦慄するような悦楽が、二人を絶頂へ導くはずだった。
けれど、αには何の衝撃も生まれない。Ωには、痛みだけが走った。
番は成立しなかった。
αの雄は、激しく動揺した。美しいうなじは、手付かずの聖域であるはずなのに、なぜか番は成立しない。
「い……痛い……ッ」
男は再び、うなじを噛んだ。先程よりも、強く、深く、抉るように。
薫は痛みに肩を震わせる。歯形からは、血が滲み、痛ましい痣が首筋にくっきりと刻みつけられる。けれど、それは傷跡でしかなく、番の契約は成立しない。
Ωにとって、最初に噛みつかれたαこそが絶対的な番である。番の契約の上書きなど、有り得ない。それが、魂の番に成り得るαであったとしても、例外は一切許されない。
「なぜだ……薫……?」
博己は激しく動揺している。薫の瞳からは涙が溢れ落ちて、頬を伝う。
薫は思い知らさせた。
番を失った薫は、誰かと幸せになることなど、叶わないのだ。博己と番になることはできないのだ。
運命の相手に出会いながらも、「魂の番」になることはできない。
Ωにとって、番の契約は絶対だった。
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