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「この建物、生きてるんですか?」
「ええそうです。さあ、切れましたよ。どんなお洋服にしましょうか。そのハサミちゃんのためのものですよね。こちらに出てきてもらえるかしら」
鏡はつい立の後ろにギルを立たせると、布を合わせる。
「ハサミの部分が動きにくいといけないから、リボンを使って身体に巻きつけるといいかしら。ほどけないように中央にボタンをつけて」
棚から黄色いリボンと木目のはっきりしたボタンを出してギルに見せる。
「どうかしら?」
「す、すごくいいー!」
「ふふ、でしょう」
鏡は近くにあったミシンで布の端を縫い揃えると、中央にボタンを手縫いする。ギルの身体に布を巻き付けて中央をボタンで留め、黄色いリボンを巻く。ギルはじっと立ち止ったまま、鏡に映った自分の姿を、刃を揺らしながら見ていた。
「うわああー、すごいー!」
「黄色でよかったかしら? 他の色もありますわよ」
「うん、これがいい! マリー、マリー! 見て―!」
マリーがつい立の端から顔を出すと、青い巻きスカートを着て、ギルが得意げに立っている。
「素敵じゃない。ギル、よかったね」
「うんー!」
「あら、ちょっと失礼しますわね」
鏡はマリーに近づき、白衣の襟を整える。首元の布が切れた部分に鏡の木枠の手が触れる。
「触らないでっ」
鏡は手を下げると「首元、何かで巻いたほうがいいかもしれませんね」と言って自分自身を軽く指さした。鏡に映ったマリーの首元は、ニンゲンの皮膚が一部はみ出して見える。
「使われてないマフラーがありますから。お持ちになってはいかがですか? 服も、白衣では町では少し目立ちます。体形に適した服がいくつかありますから、着替えて行かれてはいかがでしょうか」
「そうしなよ、マリーも。この布、すごく刃ざわりがいいよ!」
鏡が用意したのは、レースがたくさん使われた黒いスカートに長い赤いマフラーだった。マリーが着替え終わると、鏡はさらに耳に花の模様が入った紺色の大きなリボンをつける。
「物を大切にしてくださいね」
マリーのリボンを結び終わった鏡は、目を細めて笑顔を見せた。
「あの、あなたのお名前は?」
鏡は固まったまま動かない。
「もしかして隠しているんですか?」
「…そういうことですわ」
鏡はマリーのそばをすり抜けて他の物のところに行く。店内には少しずつ物が増えてきていた。
「行こうか、ギル」
スカートを着たギルを肩に乗せると、マリーは布の棚を抜けて扉に向かって歩く。
脳内が重力で歪むような感じがして、マリーは店の壁に片手をつく。黒くて長い髪の少女の姿が浮かぶ。泣きながら叫んでいるが、声が聞こえない。彼女の姿を見ると、死を求める気持ちが呼び覚まされる気がする。
「マリー、だいじょうぶ?」
肩に乗ったギルが呼ぶ声がはっきりしてくる。
「うん、だいじょうぶ、行くよ」
エコーがかかったように自分の声が響いて遠くに聞こえる。自分の声を確かめるようにいくつか声を出す。「行こう」「まずは外に出て」「どこに行こうか」「どこか行きたいところは」響きが取れて声が自分のところに戻ってくるにつれ、脳を圧迫するような重たい感じも消えてくる。
夜を さがして
少女の姿が消える前に、耳に触れるように彼女の言葉が残った。
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