一章 壊れたおうさま

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「マリー、どこ行こうか! オイラ、いろんなところを見てみたいよっ」  どこへも行きたくない、今すぐこのビルに飲み込まれてしまおう。  マリーは衝動的に入り口付近の布をつかみ、入口の扉に体当たりする。扉は簡単に開き、マリーは外に転がり出る。手には大きな白い花が描かれた緑の布が残っていた。  体勢を立て直して店内を見ると、鏡も客もこちらを見ていない。気づいていないのだろうか。  次の瞬間、マリーは数メートル吹き飛ばされて、歩いていた猫のぬいぐるみにぶつかり、通りに倒れ込んだ。白いビルから巨大な腕が伸びて、マリーをひっぱたいて布を取り上げたのだ。腕は緑の布をつかんだままビル本体の中に溶けるように消えた。  かなり激しく飛ばされたが、着ぐるみが衝撃を吸収したようで、マリーに大きな怪我はなかった。ぶつかった猫に謝りながら立ち上がると、ギルが走ってきた。 「マリー、マリー、だいじょうぶ? うわあ、もう、びっくりしたよう~」  ギルが泣きそうになりながら言葉をかける。
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