二章 物語という病

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 手術用ハサミのギルが道路わきのキノコの植え込みの陰からマリーを呼んだ。マリーは走り寄りながらギルを左手でかすめ上げ、植え込みの少し先にある水色に黄色の水玉模様が入ったビルに飛び込んだ。  円形の塔みたいなビルの一階には等間隔に窓が配置されていて、正面にエレベーターがあった。エレベーターのドアは開いたままになっている。マリーはエレベーターに駆け込むと最上階の十五階のボタンを押して急いで扉を閉めた。けたたましい笑い声が流れながら扉は閉まり、エレベーターが動き出した。  ガラス張りのエレベーターが上へと昇るにつれて、町中に赤いランプの光が増えているのがよく見えてきた。ゆっくりだがこのビルに集まってきている。このままだと逃げ場がなくなる。マリーは心の中でクレアに話しかけた。 (あの赤いの、なんだか分かる?)  クレアは答えない。マリーは自分の心の隅々まで探るが、クレアの存在はうまく感じ取れなかった。 「びっくりした。こわかった。あれ、なんだろう」 「あれが生きてるか、ギルに分かる?」 「わからないよう、命な感じはあんまりしないけど」  マリーはギルを左手で抱え、ウサギの顔の前に持ってきて観察する。 「周りの物たちはみんな、あの変な赤いランプに変わったのに、ギルは?」 「オイラ?」 「そう」  ギルのハサミの身体は、特に前と変わった様子はなさそうだ。 「オイラは、なんともないみたい」  エレベーターの扉が開いた。
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