二章 物語という病

16/21

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
 窓のない螺旋階段を転がるようにマリーは下りていく。塔の壁が崩れて外に落ちていく。塔全体がゆらりと回転するように揺れ続ける中、マリーは階段を駆けた。 (壁にはあまり触らないほうがいい。いつ崩れるか分からない)  マリーはなるべく内側の壁を支えにしながら螺旋階段を下りていった。 「マリー! あそこ、入れるかも!」  階段の途中でマリーの肩に飛び乗っていたギルが耳元で叫ぶ。塔は下に向かうにつれて徐々に太くなっているようで、螺旋階段のカーブもゆるやかになっていた。階段の途中に扉がある。塔の中央部に入ることができるみたいだ。マリーが扉を開けると、二重扉になっていて、もう一つ扉があった。さらに扉を開けて小さな室内に入ると、扉の横にレバーがあった。部屋の上には小さなランプが光っていて、明るい。  塔の上部がすでに崩れ始めている。マリーがレバーを下に向かって動かすと、マリーが入った部屋が下へ向かって動き出す。エレベーターのようだ。下に動いている感じはするが、外はまったく見えない。ギルがマリーの肩にしがみつくように抱きつく。 「刃が顔に当たらないように気をつけてよね」 「ポケットにいれておくれよう。オイラ、こわいよう」  マリーは短くため息をついて、ギルを右のポケットに移す。扉が開き、目の前に地下へとつづく階段が見えた。真っ暗だ。激しい破壊音と衝撃を感じ、マリーは階段へと転がり落ちた。それほど高さはなかったようで、マリーはしばらく倒れていた後、口を塞いだまま顔を上げた。  崩れた塔の壁で階段が完全に塞がってしまったようだ。エレベーターのライトが見えなくなり、落ちてきた階段を手で探ると、巨大な石が目の前を遮っているのが感じられた。急に自分の呼吸が早まるのを押さえられなくなり、マリーは息を止める。それから意識的に呼吸をゆっくりに戻す。 「うっ、うっ」  ギルの泣き声が聞こえる。 「大丈夫よ、私はここを知ってる。通路があるからまっすぐ歩いて」  クレアの声がマリーの心に響く。マリーは両手を伸ばして壁を探す。ちょうど階段の正面に細い通路が伸びており、マリーは両手で壁を触り、足をするように地面を確認しながら通路を進んで行った。地面はまだ揺れているようで通路の壁にも震えが感じられる。  闇の中で何度も、マリーの中に波のように恐怖心が持ち上がっては消えていく。恐怖心が体中に沁み込み、静かに離れていくのを、マリーは砂浜でただ波を眺める人のように観察していた。  壁を伝っていた左手が壁に当たって止まる。行き止まりのようだが、着ぐるみごしに触れる壁の質感が違う。マリーは行き止まりの壁を左手で押す。壁は軽く開き、室内のまぶしい光を浴びてマリーは目をつぶった。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加