三章:最初に名前をつけられるということ

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 マリーは横にいる人形たちと同じように踊っていた。両手を上げ下げし、足で交互に飛び上がる。手と足に白いヒモがついていて、それで手足が動かされている。隣の人形もマリーと同じ黒髪。その隣も同じく。足元は地面から少し浮いていて、自分自身の重さを実感できない。世界は真っ暗だったが、わずかな光の当たった鏡が正面にあり、自分が宙で踊る姿が見えた。いや、見えたというより、顔が振られるたびにわずかに視界に自分のような物の姿が映るだけだ。 身体の感覚がまったくないようでありながら、右腕に刺すような痛みを感じる。右腕が熱い。やがて右腕に火がつき、全身へと燃え広がる。 熱さは感じない。マリーはこれが幻覚なのだと分かっていた。私は人形ではないし、身体は燃えていない。分からないのは目の覚まし方だけだ。  でも…  もしも、本当の自分は燃えていて、うさぎだった頃の自分が本当はいないものだったとしたら。その区別はどうやってつけたらいいのだろう。私はこのまま燃え続ける。ただ燃え続ける。ヒトみたいに振る舞っていたように思っていたことは、ただの夢だったとしたら。  マリーは燃える身体を眺める。  身体に結びついていたはずのヒモが焼き切れてなくなっている。身体は燃えているのに燃えていかない。ただ、火がついているだけだ。ヒモが切れて身体は自由になった。これが幻覚でないなら、私はこのまま燃えつづけることを受け入れなければならない。  特に苦しいわけでもない。心残りになるほど、長い記憶もない。ただ、一つの名前が思い浮かぶ。自分が最初につけた名前だ。  マリーは声の出ない身体のまま、その名前を呼ぶ。
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