三章:最初に名前をつけられるということ

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 白い腕の形をした建物の残骸をすり抜けて歩くと、おうさまの女に覆いかぶさるように白衣を着たクマが倒れていた。リチャードだ。  マリーがリチャードの肩に手をかけ、呼びかけながら揺さぶるが返事はない。抱きかかえるようにしてリチャードの身体を起こそうとした時、身体がずいぶん細いことに気づいた。マリーはリチャードの腕を白衣の上から掴むが、太く見える腕のは見かけだけで、芯になっている部分はずいぶん細いようだ。  マリーはリチャードをおうさまの横に寝かせ、首のあたりを調べる。 「やっぱり」  首のところが外れるようになっている。リチャードはマリーのウサギと同じく、着ぐるみを着こんでいるのだ。マリーはクマの頭を引っ張って外す。現れたのは、マリーと同じニンゲンの顔だった。 「ねぇっ、これ誰?」  マリーはクレアに向かって心の中で問いかけるが、クレアは答えない。言葉はないが心拍数が上がり、胸の中に手が触れているような不安な感じがある。クレアも動揺しているのだ。  マリーはおうさまの顔を見る。閉じた目を指で開くが、焦点が合わない。しかし、首元を触ると二人とも温度が感じられる。もしも彼女たちが生きていると言うなら、私のこの身体はいったいなんなのだろう。 「もし、彼女たちがこの身体のまま生きられるなら、私は私で生きていられるの、かな?」  マリーは心の中に問いかけた。
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