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「あなた、生きたいの?」
クレアに聞かれてマリーは答えられない。
「答えられないなら、いなくなっても構わないでしょう?」
そうだ、自分は死んでしまいたかったのだし、もともと存在してなかったなら、もとの状態に戻るだけだ。
「ねぇっ、だいじょうぶ? みんなをはこぶ?」
ギルに話しかけられて、マリーは我に返る。
「運ぶ?」
「このままでいいの? ナマエをつけたら動けるようになる?」
「ダメッ!」
クレアが拒否の声を上げる。
「彼らに新しい名前をつけてはダメよ」
「どうして?」
「自我がどんどん増えてしまうわ。名前をつけて新しい生命となった彼らが、あなたに従うかどうかも分からないし」
「じゃあどうすればいい?」
「…最初に名前をつけられた者を探しに行きましょう。もう一度。リチャードがこの状態なら、これ以上危害を加えられることはないわ」
空では『夜』と『夜』が争い合い、触手のようにうごめく闇が地上にぶつかって生命を奪っていき、鞭で叩かれたような跡が地面に増えていく。この中を抜け、また町へ戻るのか。
「キトラ、きてくれるかな。キトラ―!」
ギルが名前を呼ぶが、水は呼びかけに応えない。
「新しい名前をつけ直せばいいわ。それで水は蘇る。地面にまだたくさん水分が残ってるもの」
「新しく名前をつけたら、もうキトラじゃないのよね」
「そうよ。でももともとキトラには別の名前がついていたじゃない。壊れかけてたのをあなたが救った。もう一度救うだけよ」
「キトラ!」
マリーは濡れた地面に向かって同じ名前を呼ぶ。しかし、水が反応する様子はない。物は死んでもただ動かなくなるだけだ。物を見慣れているマリーには、あまり不思議さはない。マリーは立ち上がったまま心を静めて名前を探す。ぜんぜん違う名前か、それとも元の名前と近い名前か。
「テトラ」
地面にふくまれた水分がマリーの足元に集まり、人の胴体のような形になった。
「テトラ、聞こえる?」
「聞こえる。あなたが名前をつけたのね、それには感謝する。じゃあ行くわ」
「えっ、待って」
「なに?」
「私たちを町まで運んで欲しいの」
「イヤよ」
テトラの頭のような部分からは細いアンテナが多数伸び始める。指が空気を触るような感じでアンテナが動き、周囲の様子を探っているようだ。
「あの黒いの、イヤな感じがする。私は地面に潜る。それじゃあね」
「ええーっ、まってよう!」
ギルがテトラの近くに走り寄って声をかけるが、テトラは地面に沈み消えていった。
「キトラはやさしかったのに…」
名前が変わる、生まれ変わるということは、誰かが死んだということなんだわ。マリーは手を伸ばし、ギルをポケットの中に入れた。
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