三章:最初に名前をつけられるということ

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 町まで連れてってくれそうな何かを生命にしなければ。土? それとも空気か?  マリーは周囲を見渡しながら歩く。 「この白いビル、もともとかなり大きくて、動いてなかったっけ」  かなり崩れてしまっているが、白い腕が生えたビルは、服を物たちに配っていたところだ。物を飲み込むのを見たし、ビルが生きているのは確かだった。このビルがここにあるということは、店を管理していた鏡も近くにいるのだろうか。 崩れたビルの近くを調べたが、鏡の残骸はない。ここには来ていないのかもしれない。マリーは白いビルのかけら全てに名前をつけようと、目を閉じて集中し、心の中に浮かぶ名前を探す。 「待って」  心の中で声がする。クレアの声かと思ったが少し違う。 「このビルに名前はつけないでくださる?」 「あなたは誰?」 「前に会ったことがあるわ。服は気に入ってもらえたかしら」  鏡の声だ。マリーは目を開けるが、鏡の姿は見えない。 「あなたが最初に名前をつけた者が鍵になっているわ。それでこのビルを刺すの。それで私のところに来られますわ」  マリーは心の中でクレアに呼びかける。 「クレア、今の声ってあなたにも聞こえた?」 「声?」  クレアには聞こえていないようだ。すると、これも自分が罹っている物語病の症状なのだろうか。考えていても仕方ない。マリーはポケットからギルを出し、刃先を白いビルに突き立てた。白くまぶしい光が辺りを包み、目がくらむ。  ゆっくり目を開けた時、真っ白い世界の真ん中に、鏡だけが立っていた。 「ようこそ。お久しぶりですわね」  マリーは鏡のところまで歩こうと思ったが、身体がどこにもない。手につかんだはずのギルの姿もなかった。 「ここは始まりの土地です。申し訳ないですが、あなただけをお呼びして、他の方はご遠慮いただきましたわ。物たちがどこで聞き耳を立てているかわかりませんもの」
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