三章:最初に名前をつけられるということ

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「私は…」  マリーは言葉に詰まる。この身体は、もともと私の物じゃない。心を拒否したのは、私じゃない。 「今はまず、『夜』を鎮めることが必要です。そのためにあなたには、壊れた命をすくいあげることをお願いしたいのですが…」 「すくいあげるって?」 「人間としての命を与えて欲しいのですわ。一つの命が新しい命を生めるように。あなたと同じようにですわ。今は『夜』の力が強いのです。名前をつけてもつけても、『夜』に壊されてしまうでしょう。だから命を増やせる仲間をつくるのです」 「人間としての命ってどういうこと? 今までみたいな名前のつけ方ではダメってこと?」 「壊れかけた物たちに、自分で自分の名前をつけさせるのですわ」  マリーは自分で自分の名前を選んだ時のことを思い出した。意識がほとんどない中、私は自分の名前を選んだ。でもそれは、病の引き金になってしまった。 「あなたには本当の名前がありましたの。壊れていない守られた名前が。だから二つの名前がぶつかり合って病が生まれてしまったのですわ。でも、名前が壊れかけている物であれば、名前の力に差があります。自分で自分に名前をつけられれば、人間と同じ力を持てますわ」 「壊れかけた物たちに、自分で名前がつけられるかしら」 「信じてくれる存在があればできますわ。焦らせずに、見捨てずに。ただ…」  鏡はそこで言葉を切る。 「あなたにそこまでしなければならない義務はありませんの。だからこれは、あなたの選択次第です」
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