三章:最初に名前をつけられるということ

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「やるわ」    マリーが答えると、鏡は身体をやわらかく曲げて頭を下げた。 「この世界に命が芽吹き始めたら、『夜』も鎮まるはずですわ。その時には…」  鏡は言葉を切るが、マリーには鏡が言いたいことが分かっていた。 「私が身体を返して、みんなを統合するってことね」 「あなたがそれを選ぶなら。わたくしは強制しませんわ」 「大丈夫、返すから。私はもともと、生きることにそれほど未練があるわけじゃないの」  鏡は少し顔を曇らせる。鏡面に、マリーの姿が透けるように映っていた。 「あなたの名前は? ここでも教えてもらえない?」  鏡は黙ったまま身体を振る。 「わたくしの名前と、そしてあなたの身体が持っていた本来の名前も。ここで守り続けるのがわたくしの仕事ですから」 「…分かった。それじゃあ戻る」  鏡は身体を傾けて自分の鏡面を見る。 「わたくしに映るあなたの姿を見てくださるかしら。徐々に濃くなっていくはずですわ。あなた自身の姿に集中して。そう、だんだん姿が見えてきたでしょう…?」  鏡の中の世界に色がつき、音が聞こえてくる。マリーは右手にギルを握りしめたまま、白いビルの前に立っていた。
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