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マリーは肩で涙を拭きながら、自分が物を生かしたいと思っていたことを思い出した。それはマリーが自分で選んだこと。
「ピピ、頼みがあるの」
マリーはすでに自分よりも大きく成長したピピを見上げながら言う。
「なぁに? あたし、なんでもできるわよ!」
「他の物たちにも、自分で名前をつけるように促して欲しいの。自分で自分の名前をつけるように」
「分かったわ! カンタンだもの。すぐにやるわ!」
ピピは周囲の水分を巻き込んで柱のように伸びあがり、ひび割れた空に向かう。
「ええっ。うえはダメだよう。『夜』にぶつかっちゃうよっ」
ギルが慌てて声をかけるが、ピピは構わず空に向かう。空中を飛び交っている暗い二つの『夜』がピピの水柱に向かうが、何も起こらずに水を通り抜けてしまった。
「ピピは平気みたい!」
マリーは『夜』に衝突したはずのピピが、相変わらず両手を広げて歌いながら空に向かって行くのを見た。はがれ落ちる空に近寄り、空中でも跳ねるように身体を揺らす。その間も、黒い空は崩れながら地上に降り注いでいた。
空全体が一度、ずれるように震えると、ほとんど一瞬で真っ赤に変わった。欠けてなくなっていた部分も、周囲から色が伸びてつながり、赤い空が生まれる。ピピは身体の向きを変えてマリーたちのところに戻ってきた。
「見て! あたし、できたでしょ!」
「すごいよ、ピピ。あの子の名前はなに?」
「ルーカスだって! ステキでしょう!」
「うん、すごい、素敵。ピピ、ルーカスにも同じことを頼める? それから、他の物たちにも。世界に生命を増やしたいの」
「うん、いいよ! 言ってくる!」
ピピが再び空へと飛んでいく。
「すごーい…」
ギルが口を半開きにしながら地面に立っている。マリーはギルをポケットに入れて言う。
「私たちもちょっとずつ、生命を増やしていきましょう」
マリーは周りを見渡し、壊れかけている物がいないか探す。すでに意識がなくなっている物は、新しく名前をつけて名前を壊してから付け直すことになるのだろうか。
「ごめんね」
ギルがポケットの中でつぶやく声が聞こえ、マリーは足を止める。
「どうして?」
「オイラ、ナマエつけられないから。こうしてカクレてることしかできないもん。おなじ、モノなのに。キトラもすごかったでしょ、やさしかったし。ピピはあかるくてハタラキモノだよ。オイラだけ、なんにもできないもん」
「そんなの気にする必要ないでしょ。やれる物がやれることをやればいいんだから」
「でも、オイラだけ…」
ギルはポケットの中で涙声になる。マリーはふと考える。ギルの名前を壊し、もう一度自分で名前をつけさせたら、ギルにも同じ能力がつくのではないか。それはもうギルではないが、本人が望むならそれでもいいんじゃないか。
「なら、壊れてみる?」
マリーはギルをポケットから掴み出して地上に下した。
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