一章 壊れたおうさま

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 ぴゃっぴゃっぴゃっー  先頭を歩く三匹のラッパ吹きのリスの後ろから、スネアドラムを叩くブリキのおもちゃ隊がつづく。リボンを口にくわえて踊る魚たちに囲まれて、巨大な王冠の形の車がやってきた。歩くような速度で進む王冠の車には、中央にイチョウの木が生えていた。イチョウの葉っぱは下半分が黄色、上半分が明るい水色だ。 「うわあっ、すごいにぎやか! オイラ、近くで見てくるっ」  ギルは窓枠から飛び降りて階段に向かって走り、そのまま階下へ消えた。  町のぬいぐるみたちは道路沿いに集まり、近づいてくるパレードに向かって手を振っている。歓声やいくつもの口笛がパレードに向けられる。イチョウの木に黒い毛の塊が結び付けられている。  パレードが近づいてきて、はっきりと見えてきたそれは、黒い髪の毛を垂らしているヒトだった。長くまっすぐな黒髪のせいで顔がよく見えない。身体をロープで巻かれるように縛られていて、裸足の足先と肩から上だけが見える。 車の振動に合わせて頭が揺れる。頭がたまに大きく持ち上がるので、どうやら生きているようだ。 「どういうこと」  マリーは窓ぎわに身体を隠しながら言う。彼女はニンゲンだから捕まったのか。 「讃えてるようにはとても見えないけど」 「名目上の話だ。この世界の物たちに命を吹き込んだのは彼女だからな。命をもらった物たちはそれなりに感謝してる」 「それなりに?」 「すべてが命になってしまうと、物を支配できなくなるだろう」  王冠の車の後には小さな虫たちの行列がつづき、その後には一つ目の巨人が鉄球を振り回しながら現れた。さらにガチャガチャと音を立てて跳ねながら歩くコーヒーカップ、フタを帽子のように弾ませて歩くペン、眠る猫を担いだネズミがつづいた。カップや文房具まで布を身に着けているのがおかしい。洋服のつもりのようだ。 「物を支配する?」 「見てろ、すぐに分かる」  集団の後ろから、首が取れかかったネコや足を引きずって歩く黒いクマなど壊れたぬいぐるみの列がつづく。修理が必要そうなぬいぐるみやおもちゃの列が一番長くつづいている。  大通りの脇に立っていたぬいぐるみたちが壊れたおもちゃたちを引っ張り、服を奪ったりガラス玉の目を奪い取ったりし始める。綿が抜かれ、糸がほどかれたぬいぐるみたちは、パレードについていこうとよろけながら集団の後を追う。 「壊れかけた物たちから奪ってるってこと? 誰も抵抗しないの」 「ここでは名前が壊れた物からはなんでも奪っていいことになってるんだ」  引きちぎられたぬいぐるみやロボットの手足が道路に散らばり、それでもパレードについていこうと這うように進んでいく。
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