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赤の森の秘密
バスを降りた後で九人に囲まれた。宇野に両手を後ろにねじあげられた。手首にロープが巻きつけられる。
「あっ、やめて」
あわてて声を出したけれど、みんな知らん顔。手首を後ろ手に固く縛られ、余ったロープで上半身を縛られた。
「このヤロー……。テメーのおかげで『厳重注意』だ。停学に出来なくて残念だったな」
鈴木にまた頭をこづかれた。それが合図のように、全員に足を蹴られたり、胸を思いっきり殴られたりした。それから何度も頭をこづかれた。
「誰も見てないからな。お前が後で三神と騒いだって証拠はないんだ。ザマーみろ」
笑い声が空に消えた。
「痛いよ。やめて」
何度も叫んだけど無視された。
「こいつは三神とグルになって嘘言った犯人だ」
「逮捕!逮捕!」
「死刑じゃん」
そのまま、先頭を歩かされた。
「まっすぐ行ったら赤の森だよ」
僕、恐る恐る声をかける。
「まだ日が沈んでねえ。オレたちは引き返すから平気だ」
「お前はずっと森に残るんだ」
九人の男女が僕のこと見てニヤニヤ笑った。
「やめてよ。そんなの!」
僕だって、赤の森の伝説は知っていた。五十年前に地殻変動かなにかで、突然、なにもなかった空地に赤の森が出現した。それまであった白い塔が赤く変わったけれど、原因はよく分かってないということだった。
そのとき、空地にいた大勢の人が亡くなったという話。いまでは真っ赤になった塔のことを玉山市では『幽霊塔』って呼んでいる。
「みんな知ってるだろう」
鈴木が笑いながら言う。
「霊能力者が森を見て、こう言ったそうだ。
『赤の女神と呼ばれる怖ろしい神がこの地を占拠した。太陽が沈んだ後、この森に近づく者は必ず赤の女神の生贄になる。すぐ幽霊塔に送られる』」
鈴木の言葉を受けて松下が言う。
「うん、聞いた。こいつを森まで連れてって動けないように縛りつけておけば、夜になれば赤の女神が幽霊塔に運んでくれる」
なんて恐ろしいこと考えてるんだろう。みんなの表情を見たら、どう考えても冗談じゃない。
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