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僕らの目の前に赤の森が現れた。五十メートル以上ある針葉樹の大木がギッシリと並んでいる。木の幹も枝も葉も、血のようにどす黒い赤色。森の土までどす黒い赤色。
そして森の中央から、蛇のようにくねくねと伸びる塔。高さが九十九メートルだと聞いた。円形の窓みたいなのが見えるけど、鎧戸で閉じられて中は見えない。
そしてこの塔もどす黒い赤色だった。風が強く吹く。くらくらと塔が揺れ、血の噴水のようにも見えた。
「日が暮れたらな。あの塔から赤の女神がお前を迎えに来るからな」
鈴木の顔が不気味に歪んだ。イケメンの見せた本当の顔。
「こいつを木に縛るんだ」
僕、あわてて逃げようとした。ムリだった。すぐ押さえられ、一本の杉の木に立ったまま押さえつけられた。グルグルとロープが、僕の体ごと木に巻きつけられる。
「だれか!」
大声を出そうとした。すぐスクールシャツのネクタイで口をふさがれた。
杉の木に縛られた僕を、九人の男女が笑いながら見ている。宇野と松下に頬をひっぱたかれた。女子たちに髪の毛を引っ張られたり、唾を吐かれた。
「万一、お前が生きて帰ったってオレたちは平気だ。ちゃんとアリバイ用意してるからな」
「オレたちのアリバイをクライメイトが証明するからな。テメーがオレたちに連れてこられたと先公に言いつけたって相手にされない」
「ザマーみろ」
思いっきり顔面を殴られた。目から火花。前が見えない。鼻血がドクドクと流れ落ちてくる。血の匂いがあたり一面、漂ってる。
「タカちゃん。もうすぐバスが出る」
松下が鈴木に声をかける。
「よーし。帰るぞ」
騒々しい声が遠ざかっていく。赤の森には僕ひとりだけとなった。
太陽が完全に沈む前。空ってこんなにも明るいんだ!
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