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死の宣告
マハー・カミラさんが僕に顔を近づけてくる。
「これはお前の最後の言葉になるかもしれない」
マハー・カミラさんが僕のことをじっと見つめている。大きな赤い瞳に僕の顔がハッキリ映っている。
「かけがえのない女性です。ずっと僕を守ってくれました」
「春奈という女がか?」
「近所に住んでて小さいときから一緒に遊んでいました。僕、早生まれで体も小さく気も弱くて、すぐいじめられてました」
「お前なら、たぶんそうだろうな」
「姉は体にハンディがありました。姉のことで僕はいじめられました。最後、母と姉は一緒に自殺しました」
「そうか? わたしに悲しい話だと同情して貰いたいのか?だがお前の今までの人生にも、お前の姉にも興味はない」
マハー・カミラさんの表情が一層恐ろしく見えた。
「だけど春奈ちゃんがいつも僕のこと守ってくれてたんです。小学中学高校とずっと一緒で同じクラスでした」
「そうか。お前には神の加護があったのか?」
「なんにも言わなかったけど、春奈ちゃんのお父さんが毎年PTA会長をしていて、一緒のクラスになるように学校に話してくれてたんです。お父さんって都議会議員でした」
「わたしが相手では、春奈の父親も役に立つまい。神の方が上だからな」
僕は聞こえないふりするしかない。
「春奈ちゃん。勉強もスポーツもできるし、クラブ活動やったらきっとキャプテンになれたし全国区で活躍できたと思います。それなのに僕を守るために、ずっと朝から晩まで一緒にいてくれたんです。感謝してます」
マハー・カミラさは冷たく僕に笑いかけてきた。
「それでお前は感謝の相手に対し、どうしたいのだ。話してみよ」
僕はマハー・カミラさんの顔をずっとずっと見つめていた。本当は心の中の別の女性を見ていた。
「いつか僕が春奈ちゃんを助けたいと思ってます」
「お前が? 無理だろう」
「僕、スポーツはダメだけど、勉強だけは出来ます。それから僕、小学生のときからずっとボランティアしてます。春奈ちゃんのこと意識するようになったら、いままで以上に一生懸命するようになりました」
「そうか、それで?」
「春奈ちゃんが僕のことを誇りに思う人間になりたいと思っています。春奈ちゃんが僕のこと助けてくれた分、僕だってほかの人を助けるつもりです。春奈ちゃんも喜んでくれると思ってます」
マハー・カミラさんが横を向いてる。
「僕の姉や母も」
マハー・カミラさんが肩を震わせる。大きく震えてる。
「ハハハハハハハハハハ」
大きな声が赤い部屋いっぱいに響き渡った。僕のことを振り返る。
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