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マハー・カミラさんとアイスクリーム
「中止だ」
突然、マハー・カミラさんが叫んでいた。
「お前と無益な話をしていて、マハー一族に定められた夕食の時間を過ぎてしまった。明日までお前の命を永らえる」
僕のことを抱いたまま、床に降りた。また僕を椅子に座らせる。
「鶴葉下という男、この塔に立て籠もるつもりでたくさんの食糧を地下にしまっていた。五十年前だから缶詰や乾燥させたものが殆どだ。わたしの神力でそのまま、鮮度を保ち続けてきた。いつもの通り、適当に食事を済ませるとしよう。それからな」
マハー・カミラさんが僕の顔をのぞきこむ。
「お前はアイスクリームというものが好きなのか?」
「えっ?」
「画像を見たら、春奈とかいう娘とふたりで食べていたではないか」
ちょっと恥ずかしかったけれどうなずいた。春奈ちゃんも僕も大好きだったもの。
「少年・悠馬に訊く。値段の高い高級なアイスクリームはどこに売っているのか? 答えるがよい」
「セブンティセブンのアイスクリームってものすごく高いけど、フランスの伝統的なアイスクリームだそうです」
マハー・カミラさんが首をかしげる。
「わたしも神だ。大概の情報は分かるが、詳しいことまでは分からぬ。だが店の名前を聞いたから、あとはわたしの杖を使えば大丈夫だ。久しぶりに長時間、外出しよう」
「でもすごく高いんですよ」
「構わぬ。どんな種類がよいのか?」
「でもそんなことしてもらったら……」
「死ぬ前の『末期の水』というではないか。お前に『末期のアイスクリーム』をくれてやる」
マハー・カミラさんって、本当に意地悪過ぎる。とにかく答えを言わなきゃ。
「ベリーベリーストロベリーにカカオをまぶしたのです」
実はこれって、春奈ちゃんも好物なんだけれど……。
「よかろう」
「マハー・カミラさん。ありがとうございます」
マハー・カミラさんが鼻で笑う。
「誤解してはならぬ。インドの諺を忘れたか。
『豚を食するときは、美味なものを与え出来るだけ太らせよ』」
またまた意地悪な表情。
「お前は豚だ。お前の血肉で晩餐を楽しむためするだけのこと」
マハー・カミラさんが僕に背中を向けた。
だけどすぐに振り返った。あいかわらず怖い顔。
でもなんだか困ったような表情なんだけど……。
「ベリーベリーとカカオとか言ったな」
僕に顔近づける。
「あの……」
マハー・カミラさんが深呼吸する。
「少年・悠馬に訊く。それはどんなアイスクリームなのか?答えよ」
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