プロローグ 鶴葉下《つるはげ》さんの悲劇

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 この森の中心部を御覧なさい。木々の間から、遥か天に伸びる不思議な建造物をあなたは見るでしょう。  長細くクネクネと不安定な曲線を描く真っ赤な塔。高さは九十九メートルと云われています。この塔は、当麻山からの風を受け、不安定にグラグラと揺れているようにも見えます。  赤の森の中の赤の塔。この塔の由来について聞きたいと思っても、それはムリな話です。赤の森のそばに、だれも人なんかいません。  もし集落まで戻り出会った人に、赤の森と塔について尋ねて御覧なさい。  誰もが沈黙し、何も教えてはくれません。一体、ここで何が起きたというのでしょうか?  町に戻ってあちこち問い合わせた末、今年、五十九歳になる一宮金太(いちのみやきんた)さんという方が、赤の森と塔の由来について教えてくれることになりました。金太さんは、今から五十年前に、当麻町で起きた無気味な出来事の体験者だったのです。  金太さんの家の壁には、笑顔を浮かべた男性の顔写真がかけられています。金太さんのお父さんです。  五十年前のあの時、金太さんはお父さんと一緒だったのです。
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