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「ここですね」
「きもっちわりぃなぁ」
「え?あぁ、自己紹介はいいんで」
「祓うぞお前」
失礼極まりない事をほざく男に、古田は石を投げた。しかし男は痛がりもせず、真っ暗な樹海を見回す。ここのどこかに、この男の体がある......というが。
「まぁ、砂漠で甲子園の砂を探す感じで気楽に探してください」
「分かんねぇよその例え」
イマイチよく分からない例えをしてきた男の為に、古田は薄暗くてジメジメした樹海の奥へと進んでいった。
探し始めて、どれくらい経ったのか。古田の怒りゲージはMAX間近だった。
「どこにもねぇじゃねぇか!どこにあんだよ!」
「おっかしいな......でも確かにここにあるんですよ」
「何で分かんだよ!」
「.........成仏、できていないので。僕......」
.........あぁ、そうか。古田は思わず黙った。
この男は、成仏ができていない。だからこうして、この世に存在してしまっているのだ。
「......わりぃ、変な事言って」
「いえ、いいんです。僕の方こそ......ごめんなさい」
古田が謝ると、男も頭を下げた。
居場所のない世界に縛られる苦しみは、古田にはまだ分からない。
しかし、それでも、古田の胸には「必ず見つける」という使命感が芽生えた。
「よし、じゃあまだ奥の方行ってみるか......」
古田がどこまでも続く闇を見ていた......その時だった。
「......おやぁ?お兄さん。あんた生きてるね?」
「あ?誰だジジイ」
「わしはオジサン。通称"釣りのオジサン"じゃよ」
「樹海で何釣るんだよ」
そう名乗る老人を見ると、確かに釣りの格好をしている。古田の方を見て首を傾げ、浮遊する男の方を見て「ほ?」と声をあげた。
「お兄さんは死んでるねぇ。こんな所に何しに来たの」
「僕、自分の体を探しに来たんです。どうしても成仏したくて......」
「.........お兄さん。それは無理じゃ」
「え?」
老人の言葉に目を丸くした男を見て、老人は少しだけ悔しそうな顔をして空を見上げた。墨を零したように真っ黒な空に、老人のため息が響く。
「ここにある死体は、ここを管理している人間が回収していった。だからきっと、お兄さんの死体も......」
「.........なんだそりゃ」
「......わしの体も、回収されてしまった。海で死んだわしの死体を、どういう訳かここに捨てた奴等のせい......でな」
老人が震える声でそう言うと、古田の胸に悔しさがこみあげてきた。
「お兄さんは見る限り"自殺"じゃな?......残念だが諦めた方がいい。自殺した霊はもともと、成仏するのが難しい......」
老人が、視線を落とした。男は黙り、古田はきつく握った拳に力を入れた。
「何なんだよ!ちくしょう!!!!!!!」
そして背後に生えていた苔だらけの木を、思い切り殴りつけた。ドン!と鈍い音がして、木がガサガサと揺れる。
すると.........。
「うわああああ!!!な、なんじゃこりゃあああ!!!」
バラバラと、白い物が降ってきた。
もしかして、いや、もしかしなくても、これは......。
「じ、人骨!?」
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