三日月の夜

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「ねえねえ、純。今日のこと、覚えてる?」  そう言われてぱっと頭に思い付き、僕は座ったまま、振り返り、母さんを見てうなずいた。 「父さんの仕事が終わって、父さんが帰ってきたら二人で旅行に出かけるってことだよね?  今日の夜、出発するんだよね? 大丈夫だよ、覚えてる」  仲が良くて何よりだと、僕は思う。 「純も今度仕事休みの日に行こうね」 「そうだね」 「ご飯、三日分作りおきのがあるから。朝の分のお弁当は小分けして冷蔵庫にあるからそれを朝、お弁当箱に詰めれば大丈夫だけど、夕方のお弁当はストックがないから何か自分で買ってね」 「うん、ありがとう」  視線を靴に移して、靴ひもをちょうちょに結んでいると、玄関の扉が開いたので、僕は顔を上げた。僕の父さん、広瀬雅樹(ひろせまさき)が仕事から帰ってきた。  父さんは建築士として働いている。 「純……次の仕事か?」 「うん」 「よく働くな。頑張れよ」 「うん」  靴ひもをきれいに結んで、立ち上がろうとした所で 「あ……! そうだ、純。あのさ……今日の旅行の話、聞いたか?」  父さんが仕事に向かおうとしている僕に、少し、焦った表情を見せながらそう聞いた。
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