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「母さんはスーパーの品だしのパートに行ってるだろ。仕事したくないのに、家族のために働いているのが、僕はすごいと思う」
リビングの机に仕事で持っていったかばんを置き、そこからキッチンにいる、母さんの背中を見ながら僕が話しかける。
「……三時間だけだよ」
母さんは、何故か情けない声を出した。
「家事があるのに、仕事に出てる方がすごいよ。というより、家事も立派な仕事だよ。家事は休みの日がなくて大変なの知ってるよ。だからこそ、偉いと思うよ」
僕が言うと、母さんの情けない声は一気に明るくなった。
「えー、ありがとう! 優しいんだね。純は本当、いい子に育った!」
料理の手をちょっとだけ止めて、嬉しそうに母さんは、振り向いた。でもすぐに僕の顔を見て少し、深刻そうにこう言う。
「でも純は働きすぎで体を壊さないか心配。無理はしないでね」
「大丈夫、分かってるよ。気を付けてるから。ありがとう」
僕が微笑むと
「そっか……うん、それなら問題なし」
と言い、母さんは笑みを浮かべ、再び火のかけた鍋に目線を移した。
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