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目の前の扉の隙間から、凄まじい勢いで水が流れ込んできたのだ。
人の気配は全くない。
ただ、水がごうごうと音を立て、私がいる部屋を水で満たしていく。
何が起きたのか、咄嗟に判断が出来なかった。
ようやく逃げなきゃという思考に至ったが、身体が石のように重くなってしまい、全く動かない。
床はあっという間に水浸しになり、どんどんと水の量が増えていく。
「助けて!!」
叫んでもどうにもならないことはわかっていたが、何か言葉を発しないとこの不可解な状況に対する恐怖から逃れられなかった。
水は、勢いを止めることなく、この部屋に流れ込んでくる。
私は、目を瞑り、大きく息を吸った。
突然音が何も聞こえなくなる。顔が水に完全に浸かったのだろう。
水の中で、今までのことを考えた。
私の生きた意味はなんだったのだろうか。
働いて、寝て、その繰り返しで、私が生きた意味はあったのだろうか。
こんなに、たくさん走って、何枚も部屋の扉を開けて、そのことに意味はあったのだろうか。
苦しさの余り、意識が遠のいてくる。
息を吸えないことはわかっているのに、呼吸がしたくて、口を開けた。
水が口内に侵入してくる。
苦しい。苦しい。助けて…
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