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 ギアの家を出ると、廊下があった。そこには他の家のドアが並んでおり、それぞれヒューマノイドが生活していた。転送装置は、同じ棟の地下にあった。  地下まで降りると、同じ構造の廊下と出会う。ただ一つ違うのは、並ぶ扉の奥にヒューマノイドはいないということ。扉の隣、インターホンがあるはずのところにはパネルがあった  この建物に住むヒューマノイドは、狩りや地質調査、メンテナンスの度にこの転送装置を使っているため、中に入ることに抵抗は無い。エドラも、他のヒューマノイドよりは少ないが、使ったことはあった。しかしギアはほとんどなかった。転送にはある程度の負荷がかかるもので、大抵のヒューマノイドはそれを軽く耐えられる程度の性能を持っていた。しかしギアはかなり脆いので、それすら毎度毎度かなりの負荷がかかっていた。具体的に言うと、転送直後は目眩や吐き気が数分から数十分続いた。  それでも以前までの転送は、転送先にエドラが待機していた。エドラはギアをメンテナンス、修理できる唯一のヒューマノイドであったため、上手く対応できたのだ。しかし、今回は一体で行かなければならない。 「どうして俺一体?」 「彼は君一体を待ってる」 「絶対に行かなきゃダメ?」 「行ってほしい」  ギアは何度も立ち止まった。そのたびに、エドラはその小さな子供の手を引っ張らなければならなかった。 「絶対体調崩すって~」 「向こうにいる彼には君のこと伝えてあるよ。最悪倒れても、一通りの対応は教えたから、大丈夫だ」  ほとんどの転送装置は使用中だった。廊下を進んで、やっと未使用の転送装置を見つけた。エドラはパネルを操作し、メモリーカードの差し込み口を表出させる。ギアは口をとがらせていた。 「ほら、ギア」 「行かなくても良いなら、行きたくない……」 「行ってくれ。頼むよ」  エドラはギアが泣いて嫌がったら行かせないつもりだったが、引っ張ればついてくる程度の気持ちならば引っ張ってでも行かせるつもりだった。ギアはため息をついて、メモリーカードを差し込んだ。ガチャン、と扉のロックが解除される。気が進まない中扉を開けると、成人型ヒューマノイドが一体入れる小さなスペースがあった。エドラの方を振り返る。 「……」  エドラはギアの頭に手を置いて、「良い子」と呟きながら撫でた。  ギアはしぶしぶと中に入り、扉を閉める。目を閉じると、扉のロックがかかった。転送が始まった。頭の中をぐるぐるスプーンでかきまぜられるような感覚。ばちばち、ぎりぎりと電流が体の中を走り、痛みと痺れで立っているのがやっとだった。頭だけを抜き取って洗濯機のなかに放り込んだら、きっとこんな感じなのだろう。ぐるぐるぐるぐる、ばちばちぎりぎり。それが随分長いこと続いた。痛いとか、そう言うのを感じる度に気絶して、また痛みで覚醒して、また気絶して、というのを何度も何度も何度も何度も何度も繰り返した。 しばらくして、がちゃ、と扉のロックが外れた。すぐにドアを開けて、倒れるように外の空気を吸う。激しい目眩と強烈な吐き気で、どこに飛んだのか分からない。ただ、床の色がさっきいた場所とは違うことは分かった。さっきまでの廊下は灰色のタイルだったが、ここは紺色だ。いや、部屋が暗くて紺に見えるだけなのかもしれない。それとも、だんだん暗くなる視界に合わせて床の色が黒く見えるだけなのか。ギアはそんなことを考えながら、崩れるように床へ倒れた。微かに残った視界に、誰かがこちらへ歩いてくるような気がした。
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