Ⅰ章 始まりの乙女

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本格的に莉梨が公汰に害を成してきたのは三時限目の化学からだった。 「えー…っと、この過酸化水素とニクロム酸カリウムは危険なので混ぜないように。絶対混ぜないように!」 理科教員の霙雲雀(みぞれ ひばり)先生がたどたどしい調子で実験の内容を解説する。歌唱力がプロレベルに高いと噂の先生だが、話のネタが何故か少し古い。 「そいつはどうかな!伏せ魔法〈融ご…」 懐から緑の小さなカードを取り出した莉梨を全力で止めに入り、カードを奪い取る。せめてセットしろ。 「混ぜるな=混ぜろだろ!?地獄の常識だぞ!」 「ここは現世だ!」 「むぅ…」 その後も莉梨の授業妨害は止まらず、公汰もそれを止めるためにひたすら尽力した。 「ちゃんと家に帰りなさい。」 時は流れ放課後。深夜に街を歩いているささくれだった思春期の男子中学生を諭す純粋な交番勤務の警察官のように公汰は莉梨に言い聞かせる。 「この子は一人暮らしらしいから家に帰らなくても大丈夫だぞ。」 それは大丈夫だが、一方で大丈夫ではない。 「それでも一回家に帰れ。」 「…分かったよ少年。」 莉梨は渋々公汰から離れていく。その背中には少々悲しみが見て取れる。 「ふぅ…」
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