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 翌日の昼間、キツネはタヌキの巣へ行きました。 「タヌキどん、いるかい!」 「ああ、こんにちわ!」と言いながらタヌキが出てきました。 「こんにちわ!実は今日はちょっと君に頼みがあるんだ」 「なんだい?」 「この山の動物図鑑に化けてくれないか」 「えっ、動物図鑑?」 「ああ、この山に住んでる動物たちのね」 「まあ、そりゃあ、良く知ってるから出来ないことはないけど何に使うんだい?」 「あっちの山に住むネムノキさんに見せるんだ」 「ねむのき?」 「女の木だよ」 「女の木?」 「ああ」 「ふ~ん、それは僕は知らないけど、只で化ける訳にはいかないよ」 「そんじゃあ、君の好物をやるよ」 「それはいい。じゃあ、ミミズとムカデと蜘蛛を全部で十匹くらいくれないか」 「変なもんが好きなんだねえ。よし、分かった。獲って来てやるよ」  という訳でキツネはタヌキに要求通りの物を獲って来て与えて黄昏時、タヌキが化けた図鑑を持ってネムノキの所へ行きました。  で、いつものようにこんばんわと挨拶を交わして誉め言葉を送って機嫌を取ってから言いました。 「これこの通り、約束の図鑑を持ってきました」 「まあ、うれしい!早く見せて!」 「はい」と言ってキツネは図鑑をネムノキに渡しました。  ネムノキはぎざぎざの葉っぱの手でページをめくりながら熱心に図鑑に見入りました。 「へえ、この山にはいない色んな動物がいるのね」 「ええ、面白いですか?」 「ええ、とっても」  ネムノキはその後も熱心に図鑑を見て見終わると、キツネに図鑑を返して言いました。 「はあ、面白かった。ありがとう、きつねさん!」 「どういたしまして」  キツネはシルクハットを脱ぎながら一礼しました。  その洗練された仕草と礼儀正しさにネムノキは改めて惚れ込むのでした。  で、キツネはさよならの挨拶を交わして今日も首尾よく行ったと手応えを得て帰途につきました。  その途中でタヌキが元の姿に戻って言いました。 「いやあ、キツネ君。僕はネムノキの花の美しさと香りの良さと葉っぱの感触に参ってしまったよ」 「そうかい、そんじゃあさ」とキツネは狡そうな笑みを浮かべながら言いました。「明日の夕方に君も図鑑持ってネムノキさんを訪ねたら。きっと気に入られるよ」 「でも、僕、図鑑持ってないよ」 「馬鹿だなあ。僕が図鑑に化けてやるんだよ」 「ああ、そっか、成程、へへへ、そんじゃあ、頼むとするかな」
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