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三
そんな訳で翌日の夕暮れ時にタヌキはキツネが化けた図鑑を持ってネムノキの所へ行きました。
「こんばんわ!」
「こんばんわ」とネムノキは見るからにがっくりした態度で挨拶しました。相手がいつもの大好きなキツネでなく全然タイプでないタヌキだからです。
おまけにタヌキが何も気の利いた誉め言葉を送ることなくいきなり、「あの、これ」と図鑑を差し出したのでネムノキはなんて野暮で無粋なのと呆れてむすっとして受け取って一応図鑑を見ることにしましたが、5ページくらいめくった所で非常に嫌な顔をして見るのをやめてタヌキに返してしまいました。
「面白くないですか?」
「面白くないどころか気持ち悪いわよ!」
「えっ、何でですか?」
「私の嫌いなミミズやムカデや蜘蛛ばかり出て来るからよ!」
「えっ、僕は好きですが」
「もう、やだー!趣味も顔もサイテー!もう帰ってよ!」
「そ、そんな、あんまりですよ。僕はあなたを慕って態々やって来たんですからキツネ同様に扱ってくださいよ」
「何言ってるのよ!図々しいわねえ。あんたなんかキツネさんと違って見てくれが悪くて無骨であるばかりか私が見たくても見れない世界のことを何にも話せないくせに!」
「いや、狸山のことなら何でも話せますよ」
「た、狸山!そんなの絶対聞きたくないわよ!あんたなんか大嫌いよ!さっさと帰ってよ!」
「そ、そんな・・・」とタヌキがすっかりしょげてしょんぼりしてしまうと、図鑑が笑いだして元のキツネの姿に戻りました。その途端、「きゃー!キツネさん!」とネムノキが歓声を上げたのとは裏腹にタヌキは激怒しました。
「おい!キツネ!ひどいじゃないか!」
「えっ、な、何で?」
「何でって、お前、態とネムノキの嫌いな物ばかり載せた図鑑に化けたんだろう!」
「違うよ。君が好きなもんばかり載せた図鑑に化けたんだよ」
「何言ってやがんだ!ふざけやがって!もう怒ったぞ!」
「キツネさん!」とネムノキが口を挟みました。「こんな奴、やっつけてしまいなさいよ!ライオンや虎より強いんだから訳ないことでしょ!」
こう言われてキツネは困り果て今までネムノキに大法螺を吹いていたことを後悔しました。
「ねえ、キツネさん!私にカッコいい所を見せて!」
「い、いや、僕は喧嘩を好みませんから喧嘩はしません」
「へっへっへ!そうは済ませねえぞ!」とタヌキが言いました。「お前、相当な嘘つきだなあ。こうなったらお前が嘘つきな証拠をネムノキに見せつけてやる!おい!俺と尋常に勝負しろ!」
キツネはいよいよ閉口しました。自分にとって負けられない戦い。しかし、僕はライオンや虎じゃなくてキツネだ。僕が勝てるとすれば、精々頑張ってもウサギ・・・でも、そうだ。相手は僕と同じくらいの大きさのタヌキだ。でも、タヌキの方が体格ががっちりしてるし力がありそうだ。はあ、どうしよう・・・と困る内、あっ、そうだ!ライオンに化ければいいんだと思いついたキツネは、この野郎!と猛然と襲い掛かって来たタヌキに対し直様、ライオンに変身しました。
それだからタヌキはびっくり仰天して腰を抜かしてしまいました。
その隙をついてライオンになったキツネはライオンの前足でタヌキの顔面をぶん殴りました。
すると、タヌキは呆気なく伸びてしまいました。
「きゃー!素敵!キツネさん!」というネムノキの歓声を耳にすると、ライオンになったキツネは元の姿に戻ってネムノキの前へ行きました。
「キツネさん、戦ってる時、ほんとにライオンみたいだったわ!」
「そうですか」
「ほんとに強くてかっこ良かったわ!」
「お褒めいただきありがとうございます」
その後、宇宙の噺でキツネとネムノキが盛り上がっていると、タヌキは目を覚まして痛む頬を摩りながら畜生、また法螺吹いてネムノキの気を惹いてやがるんだな、嘘つきがもてるこの世は間違ってると思いました。
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