1章

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あ、と思った時には遅かった 手に持っていたはずの紅茶が入っていたカップは転校生に取られ思いっきりかけられた 入れたばかりでまだ熱かった紅茶が顔にかかる 俺はまさか紅茶をかけられると思わず「…いっ…あっつッ」と捻り声が出て、その場に顔を手で覆ってしゃがみ込んだ 目にも入ったかも 皮膚がヒリヒリする 頭の上から「ちょっ、蜜、流石にそれは…」という焦ったような羽澄の声が聞こえた それに反抗するように転校生が「友達にそんな事言っちゃいけないんだぞ!」とキチガイなことを言い出した どうでもいいから氷とか持ってきてほしい 「た、隊長!!」「大丈夫ですか!?」とすぐそこで食事していた親衛隊員達が近づいてきてきた 「大丈夫」と言いたいけど、まだ痛くて顔を上げることもできない もう心が折れそうだった 今まで溜めてきたものが溢れ出そうだった そしてじわっと目に涙が浮かんできた瞬間、「大丈夫ですか?ちょっと失礼します」という声が聞こえた 誰なのかという事も考える暇もなく、顔を覆っていた手を優しく退かされる そして顔全体を冷たい何かで拭かれた ついでにという感じで目元から零れ落ちそうな涙まで誰だか分からないが指で優しくクイッと拭いてくれた 涙を誰にも見られたくなかった俺は凄い紳士対応だと思った あ、顔の痛みが少し引いた気がする 「あ、有難うございます」と俺は礼を言ってやっと顔を上げた 俺の目の前には爽やかそうな男性がしゃがみ込んでおり、その男性は「どういたしまして」と優しく微笑んだ おそらくここの学園の生徒ではない 制服ではなく黒いスーツを着ているからだ 「あ、ハンカチ」 先程俺の顔をハンカチで拭いてくれたのだろう 男性の手には濡れたハンカチが握られていた 少し茶色い?のは紅茶か それに気づいた俺は慌てて「俺洗って返します」と言った しかし男性はどこまで紳士なのか「いいよいいよ気にしないで」と言ってくれた そして立ち上がり俺の手まで引いて立ち上がらせてくれた 「すいませーん!保健委員です、通してくださーい!」と食堂の扉が開き、俺の周りにできた人集りが一斉に道を開ける
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